確かに、連載開始当初は自分の趣味について書いていたりと割と当たり障りのない内容だったのが、回を重ねるにつれ、前述のネットニュースやスキャンダルに関するトピックのみならず、勝手に盗撮してSNSに上げる世間の人へ苦言を呈したり、エゴサーチして自分への中傷のコメントを確認していることを明かしたり、イベントによく来てくれるファンのツイッターを見ていてその人の個人情報を把握していると告白するなど、どんどん過激になっていっている。高校時代はクラスメイトと共にお笑い芸人を目指していたきゃりーぱみゅぱみゅという人が本来もっていたはずの「毒」。それがこの連載、単行本では全開になっているといってもいいだろう。
一方で本書がおもしろければおもしろいほど、惜しまれるのは彼女がSNSやテレビではある時期からこうした「毒」を封印してしまっていることだ。
そもそも〈そのまんまの素の私〉で〈好き勝手なこと〉を言ったり書いたりする発信力は、きゃりーの大きな魅力のひとつ。「あたしアイドルじゃねえし」という本書のタイトルにもあらわれているように、好感度に依存するアイドルとはちがって、孤立や嫌われることを怖れない自分のスタイルをもっているのが本来のきゃりーではなかったか。
たしかに同調圧力や矯風会的な空気に支配され、少しでも世間とはずれた言動をすると苛烈に叩かれたり批判される昨今の風潮は、どうかと思う部分もある。でもだからこそ、きゃりーにはその空気に抗って炎上やネットニュースなんて怖れることなく、テレビでもSNSでもライブMCでも自由に発信してほしいのだ。
それは、今回の事件についても同様だ。ぜひ、臆することなく、無責任な報道をしたメディアに文句をぶつけてほしい。
ところで、最後に彼女に謝らなければならないことがある。実は、この連載コラムについて彼女はこんなことを書いていた。
〈そこで、これを読んでいるメディア関係の皆さんにお願いがあります。
ここからニュース拾わないで〜
これ挑発じゃないですよ〜!〉
この記事によってきゃりーにとっての大事な「サンクチュアリー」を壊してしまう可能性があるのは忍びない。が、きゃりーの才能は、そんな閉じられた世界のなかだけにとどめておくのはもったいない。人目を気にせずいつでも、本書のようにやりたい放題に発信してほしいという願いを込めて、ここからニュース拾って記事にさせていただきました。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.21 03:42