長崎県壱岐島をはじめ一本釣りが盛んな地域でもマグロが獲れなくなった。「壱岐市マグロ資源を考える会」(中村稔会長)の資料によると、壱岐島(長崎県)最大の勝本漁港での水揚げ量は05年度の358トンから13年度は5分の1以下の67トンに激減した。
一本釣りの師匠・佐々木さんは松方さんに、山口県の海の悲惨な状況についてもこう話していた。
「見島周辺で漁をしてきましたが、以前は巨大マグロだけでなく、20〜100キロのマグロも獲れていました。海にマグロの“じゅうたん”が敷き詰められたのかと思うほどで、一人ではさばき切れないので途中で獲るのは止めたこともありました。しかしソナーなど最新設備を搭載した巻き網船が産卵中の魚まで根こそぎ獲るようになり、まず小型魚が激減、続いて大型魚も年々減っていきました。あと2年もすれば、完全に獲れなくなってしまうでしょう」
巨大マグロを釣り上げた当日、佐々木さんは松方さんに、こうした危機的状況を地元選出の安倍首相をはじめとする政治家たちに訴えたことを伝えた。
「以前、安倍晋三さん(山口4区)の事務所に巻き網漁の規制について相談したのですが、具体化しませんでした。また見島周辺の巻き網船の操業規制について、萩市長や地元選出の河村建夫衆院議員(山口3区)にお願いしましたが、状況は変わらない。地元の巻き網業者に配慮をしたためとしか思えません。ちなみに金子原二郎・長崎県知事(当時。現在は自民党参院議員)の兄が経営者だった金子グループも、巻き網漁をしていました。水産庁が巻き網漁の規制をしないのは、有力者が背後にいることを気にしているのでしょう」
これを聞いた松方さんは「そうした政治的関係で巻き網船が放置されているのは、フェアではない。巻き網船に巨額の資本を投下しているとしても、乱獲を厳しく規制すべきです」「漁業先進国並の規制強化を実現して欲しい」と賛同したのだ。
巨大マグロを釣り上げた翌月(09年12月)、山口県見島を再訪した松方さんは、こうも訴えていた。
「『老人と海』の舞台となったカリブ海では、かつて大マグロが沢山取れていました。民家には釣り上げた時の写真が飾ってありましたが、乱獲で魚が全くいなくなってしまった。見た目はキレイでも海の中は死滅状態なのです。そんな海に日本沿岸がなってはいけない。子や孫に豊かな海を残すために厳しい漁獲規制をすべき。そのための活動には協力していきたいと思っています」
これを松方さんは有言実行した。週刊誌でマグロ関連の類似企画をするたびごとに、コメント掲載を快諾。マグロ問題に長年取り組む「グリーンピース・ジャパン」の広報担当者(当時)も感謝していたほどだ。
「松方さんはマグロ保護のキャンペーン動画の制作に協力してくれました。声優として解説する役を買って出てくれたのです」