しかも、これは日本に限った話ではなく、世界的に指摘されていることだ。糖尿病は日本だけではなく世界中で爆発的に患者数が増加をつづけており、国際糖尿病連合の発表によれば、2015年の糖尿病の有病者数は14年より約2800万人増の4億1500万人となっているが、富裕層にくらべて貧困層ほど糖尿病発症リスクが高いことは、アメリカやイギリスなどの研究でも明らかになっている。
つまり、経済的・社会的格差によって「健康格差」が生まれ、なかでも糖尿病はそうした健康格差の代名詞となっているのである。WHOの「健康の社会的決定要因」委員会が、健康格差の是正を目指すためには富や権力といった社会的な不平等をあらためなければならないと勧告しているように、社会的な格差そのものを是正しようとしなければ、根本的な糖尿病予防、そして人工透析問題にアプローチすることにはならないのだ。
くわえて、日本人を含む東アジア系民族は、そもそも糖尿病に罹りやすい体質をもっている。日本糖尿病協会のHPでも〈高度成長期以降に日本人に糖尿病が激増したのも、食生活の欧米化が一因〉〈「食生活欧米化」の中でも、脂質摂取率が増加していることが一番の要因である、という説が有力〉と説明されているが、〈(黄色人種が)白人と同じような食事を摂ると、高率に2型糖尿病を発症することは、多くの研究結果からほぼ証明されています〉という。
そうしたなかで必要なのは、「人工透析に1.6兆円も注ぎ込まれている!」などとがなり立てることではなく、ましてや自己負担の検討などをはじめることでもなく、糖尿病が経済的・社会的格差が原因になっていることを政府がきちんと理解し、その是正のための政策をしっかり行うことが第一にある。
そして第二に必要なのは、前提として日本人が糖尿病のリスクが高いことを踏まえ、早期発見・治療のために、厚労省が中心となって自治体、企業、地域などで食生活の改善や医療機関への受診の促進をさらに進めていくことだ。早期の取り組みによって糖尿病の重症化を食い止め、人工透析の導入までいたることを未然に防ぐ。それによって患者数は抑えられるからだ。
逆に、自己負担などの議論はむしろ、さらなる健康格差を生み、受診抑制を加速させ、患者数の増加にしかつながらないことを理解すべきだろう。これは人工透析や糖尿病だけではなく、根本の格差是正や早期ケアの重要性は医療費全体の問題でもある。
自己責任という答えありきの議論では、現状を好転させるための建設的な話などできるはずがあるまい。しかし、社会問題をめぐり弱者にすべての責任を負わせようとする風潮が進むなかでは、そんな当然の議論さえ起こらない。はっきり言って、このように「自業自得」という思考停止状態がつづくことこそ“亡国”を導いているのである。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 06:28