また、別の懸念もある。仮に一代限りの特別法を認めるとすれば、今後、将来的に再び天皇の退位をめぐる問題が立ち現れたとき、今回のケースが前例となり、その度に特別法で対処するというルーティーンとなるだろう。そうすれば必然的に、時の政権与党による恣意的な天皇の廃立の危険性が高まる。つまり、立法府を数の力でねじ伏せることで、その時々の天皇の強制退位や皇位継承の順位変更を導きかねない。ゆえに、誠実に「生前退位」について議論するならば、退位等をめぐる明確な基準や手続きを精査したうえで、恒久法である皇室典範を改正して、しっかりと明記するのが当たり前なのだ。
一方、安倍政権が一代限りの特別法制定に躍起になっているのは、皇室典範に手をつけてほしくない右派勢力への“配慮”以外に、もう一つの理由があると見られている。それが、安倍首相の悲願でもある改憲との兼ね合いだ。
各社報道によれば、政府筋は皇室典範の改正には時間がかかり天皇が望む早急な退位を難しくさせると説明しているが、これは政権側の言い訳にすぎない。実のところ、安倍首相は何よりも憲法改正の政治日程を優先し、「生前退位」の議論がその足かせとなることを拒んでいるのだ。19日、自民党は党の政治制度改革実行本部の役員会で、無期限案をも視野に入れた総裁任期の延長を事実上決定したが、これもその“改憲スケジュール”を邪魔されたくないという首相の意思が強くにじみ出ていると言える。
そして、マスコミもこの流れに追随しつつある。なかでも、安倍政権の意向を最も忖度しているのがNHKだ。もともと天皇の「生前退位」の意思をめぐる議論の発端は今年7月のNHKによるスクープだったが、これに官邸は激怒。直接、NHK幹部に猛烈なクレームをつけたとも言われており、いまNHK内部は「生前退位」の報道に非常にナーバスになっているという。
事実、17日放送の『ニュースチェック11』は、こうした“官邸への配慮”が顕著。番組の冒頭から有識者会議の初会合を取り上げたのだが、その扱い方はあからさまに政権の顔色を伺うものだった。
たとえば、スタジオでは皇室典範改正には課題が山積しているとして、桑子真帆キャスターが「いろいろ考えなければならないので時間がかかりそうですね」とコメント。あからさまに典範改正という方法にネガティブな解説をする一方、専門家の談として、小泉政権時に「皇室典範に関する有識者会議」の座長代理を務めた園部逸夫元最高裁判事の「特定の天皇について考えるほうが良いのではないか」という話をフリップで紹介。有馬嘉男キャスターが「これは特別法の制定ということになります」「政府内でも陛下がご高齢なので迅速に対応する必要がある、と有力視されています」と続け、露骨に特別法が好ましいという印象づけを行った。
さらに呆れたのが、『ニュースチェック11』が「現制度で対応」という方法があると強調したこと。これは摂政などの現行制度を指していると思われるが、なんとここで、番組では専門家のコメントとして、あの八木秀次麗澤大学教授の話を紹介したのだ。