『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)
年間3万人──。これは、孤独死を迎えている死亡者の数である。全体の死亡者数である年間125万人と比較して、いまはまだこの3万という数字で済んでいるが、孤独死はこの先も減ることはなく、2040年ごろには20万人にまで膨れ上がるだろうと言われている。
その理由はさまざまだ。現在平均寿命を迎えている世代の未婚率は3%ほどなのに対し、いま50代の世代の生涯未婚率は15%にもおよんでいることも大きな要因であり、さらに、少子化の問題や地域コミュニティ崩壊の問題なども絡み合う。いずれにせよ、今後「孤独死」に関する問題は、いま以上に深刻さを増していくのは間違いない。
そして、「孤独死」について語るときに避けては通れないのが、息を引き取ったあとの死体の問題である。
〈エレベーターでそのフロアに降り立つなり、そこは、ウッと咳き込みそうな臭いが一面に立ち込めていた。生暖かい風に乗ってやってくる、へんに甘ったるくて生っぽいなんともいえない臭い。これまでの人生で一度も経験したことのない臭いだった。(中略)動物などの死骸の獣っぽい腐敗臭と糖尿病の人の甘酸っぱい体臭を2で割ったような感じである〉
〈“これが人の死臭なんだ!”
私は、一瞬で理解した。該当の部屋の前をふと見ると、体長1センチほどの大きなハエが所在なさげにプウーンと飛び回っているのが見えた〉
これは、菅野久美子『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)のなかで、著者の菅野氏が死体発見翌日の事故物件を取材したときの記述だ。
ずいぶん生々しいルポだが、菅野氏がこの取材で出会った死体発見現場は、実はかなり生易しいものだったと言える。孤独死で何週間も放置され、さらに、それが夏場の時期だったときには、当然のことながら、その現場は修羅場になる。
『事故物件めぐりをしてきました』のなかには、日常的にそのような現場と出会う、不動産管理会社、警察官、特殊清掃業者といった人々からの知られざる死体発見現場のリアルな証言が綴られている。