『万引き老人』(双葉社)
安倍首相は21日夜、アメリカ・ニューヨークでの講演で、日本の高齢化や人口減少について、「重荷ではなくボーナスだ」などと強調。こう語ったらしい。
「日本はこの3年で生産年齢人口が300万人減少したが、名目GDPは成長した」
あいかわらず、この男は日本の現実に向き合おうというつもりがないらしい。名目GDPがわずかに増えているのは、富の集中と格差の結果であって、貧困はどんどん進行しているのに、どうやったらこんな寝言のようなことを口にできるのか。
事実、生産年齢を超えた高齢者たちはいま、とんでもなく悲惨な状況に陥っている。たとえ真面目に働き多少の蓄えがあっても、病気や配偶者の死別、子どものリストラなどで、この国の高齢者はあっという間に下流老人となってしまう。こうした日本の縮図のひとつが高齢者の万引きだ。
近年、万引きは減少傾向にあるが、しかし高齢者に限って言えば増加しており、警視庁の調査でも摘発された総数の3割もが65歳以上の高齢者だという結果が出ている。また万引き高齢者の70%以上が無職で生活保護受給者も11.3%に上り、万引きするのは食料品が圧倒的だという。
16年にわたり“万引きGメン”として現場に立ち続け、またフリーライターでもある伊東ゆう氏の『万引き老人』(双葉社)には、高齢者たちの絶望的貧困と悲壮感さえ漂う万引きの事例が紹介されている。
東京下町のスーパーマーケットで酒や寿司、うなぎの蒲焼きなど7000円以上を万引きした71歳男性の動機も壮絶なものだった。
〈痩せて突き出たように見える老人の目はうつろで、呼吸も荒い。枯れ木のように細い身体はふらついており、いまにも倒れそうな雰囲気だ。〉
老人の所持金はわずか300円。しかも医師からは余命3カ月を告げられた末期のガン患者だという。
「死ぬ前に、好きなものを目一杯食べてやろうと思って……」