ちょっとホロリとする良い話である。ただ、ある程度の年齢になったら引退する女優と違い、一生アダルト業界で生きていくことの多い場合、親バレ以上につらいものがある。子バレである。カルト映画と化した『劇場版テレクラキャノンボール2013』の生みの親であるAV監督のカンパニー松尾は、子どもに自分の仕事を説明するにあたっての苦悩をこう語る。
「僕も子どもが小学生の低学年ぐらいの頃は仕事を聞かれてもテキトーに「カメラマンだよ」なんて言ってたんです。でも、中高生とかになったら「どんなカメラマンなの?」「何を撮ってるの?」なんて聞きたくなりますよね、普通。でも聞かれたら困るから、家では仕事のことは極力触れない。もう気づいていてもおかしくない年頃ですよ。もし気づいてくれてて、僕に気を使ってるだけなら逆に見せたいものもあるんです。AVじゃなくて。幼い頃の子どもをムービーで撮ってて、それをPV風にまとめてるんです。本当はそれを見せてあげたいんですよ。子どもの反応を見たいんです。「お父さんは映像の仕事をやってたんだよ」って言いたい。でも、まだ言えないんです」(前掲『AV男優の流儀』)
サングラスがトレードマークの強面のルックスからは想像もできない発言だが、ハメ撮り監督として自ら男優も務め画面に映ることも多いカンパニー松尾監督だから、その葛藤はより深いものなのかもしれない。
ただ、そんなに気にせずとも、子どもは親の仕事を知ったとしても何も思わないものなのかもしれない。V&Rプランニングの元代表取締役で、黎明期からAV業界に関わる安達かおるはこう語る。
「一番上の子供が18歳になった時に、実は「俺の本当の職業はな……」って初めてカミングアウトしたんですね。意を決して。そしたらすごい笑われて。「そんなの小5の頃から知ってるよ」って(笑)。中学校で私の作品がクラスで話題になって「俺すげー困ったんだからな」とか言われて」(前掲『AV男優の流儀』)
インターネット時代に入り、AVの映像を見ることは格段に容易になった。特に変わったのが、10年前、20年前にリリースされた過去作品も簡単に見ることができるようになった点だ。DMMなどの動画配信サイトにアクセスすれば、DVDやVHSでは入手困難な作品もクリックひとつで簡単に見ることができる。
先日当サイトでも取り上げたが、ゴールドマン・サックス社に内定を受けていた女性が、過去のAV出演歴が明るみになったのがきっかけで再度身辺調査が行われ、結果的に内定取り消しになってしまった騒動は話題になった。
そういったネット時代ならではの事情により、親バレ、兄弟バレ、友だちバレ、子バレなど、親しい人たちにAV出演がバレるリスクは以前に比べれば高くなった。AV業界に対する偏見もだいぶ減った昨今だが、今後もこのような葛藤にまつわる小咄は、AV関係者の間で生まれ続け、語り続けられるのであろう。
(田中 教)
最終更新:2018.10.18 05:47