また、最近では、東京の田中裕太郎杉並区議が例の「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログについて、「便所の書き込み」「『死ね』というほど日本が嫌なら、日本に住まなければ良い」などという暴言を自身のブログに書き連ねた。田中区議は13年にもブログで、認可保育所に入所を断られた杉並区の母親について、「子供というものは、基本的には親が家で育てるもの」「ならば最初から社会でお宅の子供の面倒を見ろということか」などとブログで綴っている。地域住民のために働くことが職務であるはずの議員とは思えない発言だが、とりわけ「日本に住まなければ良い」などという暴言はネトウヨそのものである。
だが、これらの自民党系地方議員による差別やじ、ネトウヨ言動は氷山の一角にすぎない。より大きな問題は、こうしたトンデモ極右議員がのさばる背景だ。実は現在の自民党は“極右議員の製造工場”ともいうべき構造的仕組みをもっている。これには幾つかの要素が相互に連関している。
ひとつは、日本青年会議所(JC)の存在が下地になっているということ。JCは地域の若手経営者などが集まる公益社団法人で、地方の名家や企業の二代目、三代目が数多く参加していることで知られる。地主や土建屋関係の人材も少なくないことから、自民党と結びついて国会議員や地方議員を多数輩出してきた。
そのJCの中に、16年現在「憲法意思確立委員会」なる名称の集団がある。過去には「憲法論議推進委員会」や「自主憲法制定委員会」という名前で活動しており、同委員会のFacebookには活動記録として、日本会議が主導する憲法改正キャンペーンや改憲啓蒙集会の下働きをしていることがこれ見よがしに記されている。
同委員会はここ数年、改憲世論を喚起するためのセミナー等を全国規模で展開しており、地域の中学校にも出向いて生徒たちに改憲の意識を植え付ける出前授業などを開催。また、かつては右派のいう「自虐史観」を広めるためのアニメなどを製作して公開してきた。ようするに、“地方の名士(の子孫)”から自民党議員へのルートであるJCの内部が、そもそも日本会議の別動部隊化しており、当然、JCの会員たちも極右改憲派に傾いていく、という仕組みだ。
ふたつめは、保守系放送局「日本文化チャンネル桜」や、同局社長の水島聡氏が幹事長を務める保守系団体「頑張れ日本!全国行動委員会」など、草の根保守運動との連携だ。
安倍首相ら極右界隈の有力政治家ともつながる“大手草の根保守”(妙な言い方ではあるが)は、数々の地方議員を改憲タカ派の論客として青田刈りしてきた。無名の地方議員からみれば、とりわけ「チャンネル桜」への出演は保守系コネクションの形成や、ネットの保守層およびネトウヨの支持を取り付ける絶好の機会。こうした右派のネットワークに取り込まれ、あるいは積極的に参加していくうちに極右論壇にありがちな民族差別や“左翼嫌い”の思想が蛸壺的に醸成され、パブリックな場所でもそうした発言が口をつくようになるのではないかと思われるのだ。
そして、みっつめにして最大の要素は、やはり、12年末の解散総選挙で第二次安倍政権が誕生したことだろう。いうまでもなく、安倍晋三は自民党内の最右派派閥・清和会出身で、そのなかでも随一の改憲タカ派である。他方、宏池会など保守リベラル系有力派閥は弱体化が著しく、現在の自民党は「安倍派でなければ人ではない」とまで言われるほど、“安倍一強”状態が揺るぎない。
もちろん、こうした自民党内の右翼的な空気を、自民党会派の地方議員たちも忖度する。特に、将来的に国会議員の席を狙う自民党系地方議員らは、小選挙区制の影響もあり、当然のように安倍チルドレンになることを義務付けられた。彼らトンデモ議員たちが、改憲推進や歴史修正、あるいは日本会議のような戦前回帰思想を前面に押し出すのも必然なのだ。
事実、こうした自民党系トンデモ地方議員は日本会議地方議員連盟のメンバーとも重複する。少なくとも、セクハラやじの鈴木章浩・野島善司両都議、「同性愛は異常」の藤墳守岐阜県議、アイヌ差別の金子快之元札幌市議、ネトウヨの小坪慎也行橋市議、「日本から出て行け」の田中裕太郎杉並区議が日本会議地方議員連盟のメンバーであることが、日本会議の機関誌「日本の息吹」15年3月号と4月号に掲載されたリストからも確認できる。