だいたい、東京での五輪開催に血筋をあげていたのは石原慎太郎元東京都知事だ。森喜朗五輪組織委員会会長と田原総一朗氏の対談本『日本政治のウラのウラ 証言・政界50年』(講談社)によると、2回目の投票で惨敗した2016年五輪招致失敗の際、石原氏は帰りの飛行機のなかで泣いていたと森氏は言う。涙の理由を森氏が問うと、石原氏はこう話した。「オレ、選挙に負けたことがないんだよ。こんな悔しいことはない。オリンピックはもう止めた」。
石原氏は負け戦が気にくわなかっただけではない。JOC副会長でミズノ前会長の水野正人氏と反りが合わず、石原氏は「あの野郎、生意気で不愉快だから、辞めさせろ。あいつを辞めさせないと、オリンピック招致をやらないよ」と言い出したのだ。話はさらにふくらんで、石原氏は「竹田も辞めさせろ」と森氏に迫ったというが、これは元西武グループ総帥の堤義明氏が石原氏と竹田氏の仲を取りもち、矛を収めたという。
しかし、今度は石原氏が東京都知事選への出馬を渋ったことから、五輪招致の問題は、森氏いわく「自民党の政治問題」にすり替わる。事実、候補選びに際して東国原英夫氏の名も挙がったが、「東国原は、東京オリンピック反対でダメ」(森氏)と述べている。結局、石原氏が選挙に出なければ息子である伸晃氏の立場が危うくなるからと森氏は石原氏を説得。石原氏は出馬を了承したが、「その代わり、伸晃のことを頼む」と交換条件を出した。森氏は“12年の自民党総裁選挙で同じ派閥の町村信孝氏や安倍晋三氏を応援せず、伸晃氏支持に回ったのはそういう理由”と語り、「すべて東京オリンピック招致のためだったんだ」と胸を張っている。
「日本中が「万歳、万歳」と言って喜んだでしょう。安倍くんは、日本中が一丸となって「万歳」と叫んだのは日露戦争以来だと言っていたけれど、ひとつ間違えれば、この喜びはなかったんだ」(森氏)
五輪招致は石原氏の肥大した功名心から出発したものだが、そこに森氏が絡んだのは一説には五輪利権を一手に握るのが目的だったとも囁かれている。そして、ここぞとばかりに安倍首相が支持率アップと名声欲のために相乗りした。──こうした裏事情を見ていると、彼らは「復興五輪」など露ほども考えていなかったことはあきらかだろう。
今月16日に森氏は『NEWS23』(TBS)に出演し、震災復興のために公共事業費が高騰したことを理由にして「(大会運営は当初予算の)3000億でできるはずないんですよ」「最初から計画に無理があったんです」とお得意の手のひら返しを披露した。繰り返すが、立候補前に震災が起こったことを考えれば、こんなことは最初から予想できたこと、いや、予想していなければおかしいのだ。要するに森氏は、端から、被災地の復興を阻害し、後で費用を増額する腹づもりで招致していたと白状しているも同然ではないか。
さんまが語った“福島のことを考えると五輪は喜べない”という言葉を、いま一度、自分中心で招致を進めた凶悪政治家たちに投げつけてやりたい。震災復興のためにならないばかりか足を引っ張るくらいなら、いまからでも遅くはない、国民は東京五輪の返上を訴えるべきだ。
(水井多賀子)
最終更新:2016.05.22 12:30