もちろん、“政界のゴッドマザー”たる洋子氏は、ただ黙って政界を見ていたわけではない。夫・晋太郎氏が落選したときは、洋子氏も地盤固めに奔走したというが、その際の驚きのエピソードを平然と述べている。
「なかなか選挙にならなかったので、当時総理だった佐藤の叔父に、「なんで早く解散してくれないの」と申したこともございました」
夫のために国会の解散を直訴する──。国民無視の考え方に唖然とさせられるが、1987年の総裁選にて夫が竹下登に破れたときのことも、洋子氏は「わたくしは思わず「これはいったいどういうことになっているの」と口走ったものです」と振り返っている。
夫が最期まで就けなかった総理大臣の座、そこにいま息子がいる。このことは洋子氏にとって大きな意味があるに違いない。もちろんそれは“父の悲願を息子が達成する”という夢がかかっているからだ。
事実、このインタビューでも洋子氏は、現在の憲法はアメリカの押し付けだと強調。「時代はここまで移り変わっているのですから、いまの時代に合った憲法を作るべきなのではないでしょうか」と、息子をバックアップしている。
「五十五年の歳月を経て、父と同じように国家のために命を懸けようとする晋三の姿を見ていると、宿命のようなものを感じずにはおれませんでした」
「母親として晋三にしてあげられることはそうはありません。ただ主人の仏前には、晋三の健康のことと「晋三が、この国の歩む道を誤らせませんように」ということを、祈るばかりです」
なぜ、その「宿命」とやらに国民が巻きこまれなければならないのか。国を動かす華麗なる一族に育った母も息子の物語に付き合わされるという、この理不尽。息子はもうすでに「この国の歩む道を誤らせ」ているのだが、洋子氏にはそんな国民の言葉は届かないだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2016.07.22 06:30