しかし、橋下氏は“私人”などでは決してない。橋下氏は「政界引退」などと言っているが、実際は、おおさか維新の会という公党の「法律政策顧問」として、以前と何ら変わることなく政党への影響力を保持している。それどころか、今も事実上の“オーナー”と言ってもいい状況だ。
例えば、おおさか維新の会代表・松井一郎大阪府知事は、党の方針などについて橋下氏から「さまざまなアドバイスをもらう」と公言し、先日の京都3区衆院補選では10数回以上、橋下氏の名前を出し連呼したほど。また、馬場伸幸幹事長も今年の党の仕事始め式で「橋下徹をとにかく国政に復帰させることがわれわれの最大の目標」と述べ、橋下の政界復帰を全面的に後押しする考えを示している。
ようするに、橋下氏は、表向きの「政界を引退した私人」と裏の「事実上のおおさか維新オーナー」の顔を使い分けて、批判を封じ込めようとしているだけなのだ。
しかも、このダブルスタンダードは批判の封じ込めだけではなく、今、橋下氏の政治的野望実現のための最大の戦略となっている。
冒頭で紹介した、テレビ出演がまさにそうだ。放送法の趣旨からいっても、公党の幹部がテレビでレギュラー番組を持つことなどありえない。しかし、橋下氏は「政界を引退した」という名目で、冠番組を持ち、当初はバラエティと言っていたのが、少しずつ社会問題や政治的なテーマまで扱い始めている。
そして一方では、おおさか維新の事実上のオーナーとして、その方針に口を出し、維新側も“橋下=おおさか維新の顔”というイメージを振りまくことで、橋下氏のメディア露出を党勢拡大の宣伝にしていく。
まさに何から何まで二枚舌。狡猾というほかはないが、橋下氏が敗訴した「新潮45」の記事には、高校時代の教師のこんな橋下評が掲載されていた。
「嘘を平気で言う。バレても恥じない。信用できない。約束をはたせない。自分の利害にかかわることには理屈を考え出す。人望はまったくなく、委員などに選ばれることはなかった」
これをもって、「自己顕示欲型精神病質者」「人格障害」と診断できるどうかは、精神医学の専門家でないのでよくわからないが、少なくとも橋下氏が「自分の利害のために平気で嘘をつく」人間であることは間違いない。
しかも、その橋下は今、安倍政権と結びついて憲法改正の動きを着々と進めているのだ。メディアはそのことの危険性をもう一度、考えてみるべきではないのか。
(田部祥太)
最終更新:2016.05.17 10:42