高裁は、橋下氏が高校生だった当時、生活指導に関わった教諭から聞いたとする「新潮45」の記事内容を「野田氏らが真実と信じる理由があった」と判断。野田氏の誌上診断にも公共性があって違法性はない。公人に対する “表現の自由”を尊重した至極まっとうな判決といえる。
高裁で逆転敗訴を喫した橋下氏だが、橋下氏が敗訴したのはこれだけでない。同じく「新潮45」同号でノンフィクション作家・上原善広氏が書いた橋下氏の出自や父親と反社会的勢力の関係について記された記事で、橋下氏は新潮社と上原氏を名誉毀損で提訴していたが、今年3月30日の一審判決では「記事は政治家としての適性を判断することに資する事実で、公益目的が認められる」と不法行為を否定、「橋下氏は国民の高い関心を集める政治家だった」と指摘した上で、プライバシー侵害の主張をも退けたのだ。
判決は当然だ。政治家に対し「厳しい批判」や「風刺」「揶揄」などいかに辛辣で品位を欠く表現であろうが、為政者はそれを甘受すべきで、そのことで担保されるのが表現の自由であり民主主義国家としての絶対的条件だ。これは過去の名誉毀損事案で裁判所も認めており、橋下氏はこうした民主主義の基本中の基本すら理解していないらしい。
だが、この敗訴判決の事実を知って、あらためて呆れたのは、橋下氏が大阪市長在任中からこのような訴訟を連発していたことだ。
橋下氏は先述の『橋下×羽鳥の新番組(仮)』でも、政治家は公人だから批判報道や私生活を暴かれるのはやむをえないという旨のもっともらしい発言を繰り返している。ところが、自分に対する報道には、スラップまがいの訴訟で、批判の封じ込めにかかっていたのである。
しかも、これから先、橋下氏はこうした訴訟をますます連発するだろう。たとえば、橋下氏は、昨年12月13日のTwitterでこんなことをツイートしている。
〈西谷文和殿 提訴提起します。(中略)橋下綜合法律事務所〉
〈これまで橋下に対する批判的表現は公人に対する表現として最大限容認してきました。しかしこれから橋下は私人になりますし、当事務所の信用問題にかかわりますので、今後は橋下の社会的評価を低下させる表現に対しては厳しく法的対処をしていきます。ご注意下さい。橋下綜合法律事務所〉
西谷氏はイラクでの取材を中心にした戦場ジャーナリストで、橋下大阪府政を厳しく批判し、大阪府咲洲庁舎を96億円で購入したのは不当だとして住民訴訟を起こした一人だが、その人物に橋下氏は“大阪市長を辞めた自分は私人なんだから名誉毀損訴訟を乱発する”と恫喝をかけたというわけだ。