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「酒離れ」の本当の原因は貧困にあった! 一億総「中流酒」崩壊…格差社会の日本は金持ちだけが酒を飲める社会に

 ここまでで「酒」と「格差」の興味深い関係が分かってきた。ただ、話はこれで終わりではない。橋本氏は、格差が広がるにつれ、人々の飲む酒の種類にも変化が見られるようになっていることを発見する。

 全国消費実態調査が出したデータを見ていくと、高度経済成長期の1974年は、下位20%の低所得者層で焼酎、上位20%の高所得者層でウイスキーの消費額が多いという傾向はあるものの、日本酒とビールを中心に、どの階層の人もだいたい同じような酒を同じような量飲んでいた。「一億総中流社会」は「一億総中流酒社会」でもあったのだ。

 しかし、2009年のデータを見ると、その消費パターンは一変する。階層によって飲む酒の種類はくっきりと分化され、皆が同じ酒を飲んでいるという状況は崩壊してしまう。

 最底辺の所得者層で飲まれているお酒は焼酎と酎ハイ、それが中間層へと上がるにつれだんだんと発泡酒の割合が増えていき、年収600万円を境にビールへと切り替わる。そして、ウイスキー・ワインは低所得者層ではほとんど飲まれず高所得者層のお酒として親しまれていく。ワインを例にとれば、上位20%の高所得者層は平均の2倍近く、下位20%の低所得者層の4倍も消費している。このような状況は高度経済成長期には見られなかった現象だ。

 以上のように「一億総中流酒社会」は壊れていった。そして、こうなってくると問題となるのが現在の酒税である。日本の酒税は明らかに逆進税として機能してしまっていると橋本氏は警鐘を鳴らす。

 現在の酒税法では、低所得者層に愛されているお酒ほど酒税が高い。例えば、焼酎の場合(アルコール度数25度の焼酎で)1リットルあたり250円、麦芽25%未満の発泡酒で1リットルあたり134.25円となる。これと比較し、ワインは1リットルあたりわずか80円。しかもワインは値段が高いので税率は極端に低くなる。この逆進税となっている酒税法に関しては議論の余地が十分にある。

 アベノミクスの化けの皮が剥がれはじめ、首相がしきりに強調する「雇用の回復」にしても、正社員の数はほぼ横ばいで、非正規雇用の労働者のみが増えているデータが浮き彫りになっている現在。格差は是正されることなく広がり続けている。このままでは、お酒は高所得者層のみの嗜好品となってしまい、日本酒づくりの伝統をはじめ、これまで我が国が築きあげてきた酒文化も衰退の一途をたどってしまうかもしれない。
(井川健二)

最終更新:2016.08.05 06:41

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