官僚の言い分は、こうだ。
「雑誌はすべて事前にチェックしてきました。経済誌もそれ以外の雑誌もすべてです。文科省の広報室にも改めて確認したので間違ありません。小さなコメントだけが載る程度や、時間がない場合にはそこまでしないこともあるが、インタビューの場合、新聞も事前チェックに応じている。一問一答スタイルの記事でも、コメントだけが入る形式でも同じように間違いがないか事前にチェックしてきました。政府の公式見解と違っていたら困りますから」
「報道機関から原稿確認を依頼されるケースだけでなく、こちらからお願いして原稿を事前に出してもらったケースもある」
林記者は〈大げさではなく、とても衝撃的だった〉と書いているが、それは当然の感想だろう。「日経ビジネス」では、〈掲載前の原稿を被取材者に渡すことを禁じている。文章を書いた人に著作権が帰属する寄稿などの例外はあるが、それ以外の記事では掲載前の“生原稿”を渡し、それを確認してもらうことはない〉という編集部のルールがあるという。これは編集権の独立を考えれば、いたって“常識的”な対応である。
その後も林記者は事前チェックを拒否し、一方、官僚は「私は原稿を出せと迫っているわけではない。そうですよね。だから検閲には当たりません。他のマスコミは事前に原稿を出している、その事実をただ客観的にお伝えしているだけです」と言い回しを変えてきたという。まるで脅しのような話だが、もっと恐ろしいのは、この官僚の言うことがほんとうなら、ずっと前からこうした事前チェックが行われてきたという事実のほうだろう。
林記者はこの一件から文科省記者クラブに所属する記者たちに事前チェックの経験があるかどうかを尋ね、その結果、1社として応じたことはないという返答が得られた。そして、その結果を再び文科省の官僚に伝えているのだが、返事は「文科省の記者クラブに所属しているメディアも記事の事前チェックに応じています。私の知る限りでは最近でもあった。それは間違いない。すべての雑誌は事前にチェックしていますが、記者クラブの記者の場合、正確にそれがどれぐらいの比率なのかまでは分かりません」というものだったという。
果たしてどちらの言い分が“真実”なのか。ただ、この強弁ぶりを見ると、すべてではなくても事前チェックは実際に行われているのだろう。