ただ、一方でこう反論する向きもあるだろう。「受章者は実際に金に変えられぬ栄誉を感じているし、個人の公に寄与する行為には国から褒賞を与えるのは当然だ」と。
果たしてそうだろうか。たとえば前掲『勲章 知られざる素顔』では、勲一等旭日大綬章の受章者なかにアメリカ軍人のカーチス・ルメイがいることを取り上げている。第二次世界大戦中の米航空部隊司令官で、1945年3月10日の東京大空襲を指揮した、あの「皆殺しのルメイ」だ。10万人が一夜にして死亡したとされる未曾有の民間人虐殺の指揮者が、1964年の佐藤栄作内閣のときに叙勲された。なぜか。
栗原氏が内閣叙勲局から2011年に得た回答によれば、「ルメイ氏は、戦後わが国の自衛隊の建設について非常に功績があったため、そのことを評価することは当然のことだと考えています」とのことだが、これに納得することは難しい。実際には日本の対米追従外交の一環であり、換言すれば“アメリカのご機嫌取り”であろう。
これは保守主義者を自称する安倍首相も同様である。本サイトで既報のとおり、14年秋の叙勲ではジョセフ・ナイ元国防次官補に旭日重光章を、昨年秋にはリチャード・リー・アーミテージ米元国務副長官に旭日大綬章を与えている。“戦争屋”の異名を持ち、アメリカの国益のために動くジャパンハンドラーと呼ばれる彼らに叙勲していることが動かぬ証拠だ。
そう考えると、冒頭に触れた今回の安倍首相による“保育士や介護職員に叙勲を検討している”との答弁の本音が見えてくる。自民党が一貫して復活を目指し奔走した叙勲制度が、大日本帝国憲法で天皇の名のもと国家を統合していったという事実。そしてもう一つ、政権が「天皇と国を結ぶ」と位置付ける叙勲制度が、現在でも政治の道具でしかないという事実。まさに「天皇の政治利用」としか言いようがない。
待機児童問題に対する不誠実さをこれで糊塗することほど愚かな行いはないが、ちなみに、賞勲局によれば勲章を含む栄典全体の予算額はおよそ28億から30億円、そのほとんどは勲章や褒章の製造費だという(06〜10年まで。『勲章 知られざる素顔』より)。
安倍首相が本気で待機児童問題に取り組むつもりなら、この予算を全てまわしたらどうか。
(宮島みつや)
最終更新:2017.11.24 08:58