こうしてSEALDsのデモは多くの人々に受け入れられ、大きな社会現象まで巻き起こした。確かに、ECDが言う通り、SEALDsはそれ自体でひとつの「文化」と呼べるほどの存在となったといっていいだろう。しかし、そのうねりが本当の大衆、メジャーのシーンにまで影響をおよぼしたかというと、そうとは言い切れない。
たとえば、昨年、アメリカではケンドリック・ラマーというラッパーが、相次ぐ白人警官による黒人青年殺害事件を受けて、人種差別問題をテーマとした『To Pimp a Butterfly』というアルバムをリリースしているが、この作品は政治的な歌詞を前面に押し出した重い内容にも関わらずセールス面でも大成功をおさめ、全米アルバムチャート2週連続で1位を獲得している。
しかし、日本でヒットチャートのトップにいるのは、相変わらずAKB48や嵐といった面々で、SEALDsが巻き起こした社会や政治に対する怒りを反映したような楽曲は見られないのが現状だ。
しかし、ECDはそんな状況を決して悲観的には見ていない。
「でも、日本には日本人のメンタリティに合った『政治』を歌う歌のかたちがあると思うんですよね。この間ふと考えたんですけど、60年代後半の日本のロックを聴くと、直接政治的なメッセージを出していない人たちのなかにも、同時代の学生運動の空気を反映しているバンドがたくさんあるんですね。例えば、ジャックスというバンドは、曲のなかに政治的メッセージはほとんどないけれど、でも当時、若松孝二の映画に音楽を提供していたりとか、そういう部分の活動ではすごいコミットしてるんです。運動や政治に関する言葉は歌詞に含まれてないし、抽象的なかたちでしか表現されてない歌なんだけど、そういう音楽を好きになって聞いていた影響で、いまデモに参加している自分がいます。たぶん、僕もこれからはそういうものを生んでいかなきゃいけないんじゃないかなと思うんです。直接政治について歌うわけではないけれども、たくさんの人がデモで政権に異議を訴えている、いまの時代の空気を反映させた歌を」
今年夏の参院選では、憲法改正が大きな争点になる。昨年夏以上の大きな反対運動が起きなければ、おそらくそのまま、安倍政権が全面勝利し、憲法改正になだれこんでいくだろう。
そのなかで、ECDがどんな新しい歌をつくりだすのか。そして、運動をどう盛り上げていくのか。期待をこめて見守っていきたい。
(インタビュー・文・写真/編集部)
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Profile
1960年生まれ。1980年代後半より音楽活動を始め、日本語ラップのオリジネイターのひとりとして後進のミュージシャンに多大な影響をおよぼしている。最新アルバム『Three wise monkeys』(P-VINE)が発売中。また、文筆家としても活動。『写真集ひきがね 抵抗する写真×抵抗する声』(ころから)の他にも、『失点イン・ザ・パーク』(太田出版)など多くの著作がある。
最終更新:2017.11.24 08:42