「可愛い」と褒められて嬉しくなった彼女は、そのグループと記念撮影をする。そして、イベントが終了したあと、その画像をツイッターに載せることも忘れない。しかし、そのアイドルユニット・Dのメンバーは誰一人としてその写真をアップすることはなかった。「アップするの忘れちゃったのかな〜」と軽く考えていた山口めろん。しかし、その裏にはとんでもない理由があった。
後日、再びそのグループと一緒にイベントで共演した時、そのグループのリーダーがメンバーに向かってこんな言葉をかけているのを偶然聞いてしまうのである。
〈「私たちよりもオタクがついてるアイドルと、一緒に写真を撮ってもらうんだよ! その子がその写真をツイッターとかでアップしてくれたら、私たちのフォロワー数アップにつながるんだからね。この前の変なユニット名のアイドルのオタクも、たくさん私たちに流れてきたでしょ! こーゆー地道な努力が、アイドルには大事なんだよ!」〉
彼女たちは利用されていたのである。
このようなつらい経験をしながらも、それでもアイドル活動を続けてきた山口めろんが「卒業」を考えたきっかけ、それは非常に些細な出来事だった。大学を卒業した後も就職の道を選ばずそのまま芸能活動を続けた彼女が、OLとして働き始めた友人と食事をした時にそのきっかけは訪れる。
〈それは、私の友達の中では少数派の、OLとしての道を選んだKちゃんと一緒にご飯を食べに行った時のことでした。
ふとKちゃんのキラキラと輝く手元に気がついた私は、
「ネイルやっているの? 綺麗だね。いいな〜!」
と言って、向かい合うKちゃんに対して少し身を乗り出しました。
K「綺麗でしょ〜♪ しかも結構安いんだよ!」
め「いくら、いくら? 私もやりたい!」
K「5500円!」
えええええええ――!
2、3週間しか持たないようなネイルに、そんな高額払えるわけがない!
(中略)
5500円なんて……私の毎月の食費より高いんじゃないの!?
(中略)
……この格差は、一体何なのでしょう……。
私は18歳の頃からアイドルを始め、イベントやラジオ、テレビなどのお仕事をし、大学の同級生よりも一足先に社会へ出て、いろいろ大人に囲まれて仕事をしてきたはずです。
それなのに、金銭面ではこんなにも格差が出てしまうなんて……。
私の苦労が報われることは、今後あるのでしょうか、と心から疑問に思いました。
格差が出きたのは、金銭面だけではありません。
精神面でもなんです。
私は自分の精神年齢が事務所に入った時の18歳で止まっているような気がしました。
毎月アルバイトに追われ、ギリギリの収入で生計を立て、毎日必死に生きている私……。
しかしKちゃんには、私にはない“大人の余裕”というものがありました。〉