絶体絶命の状況のなか、彼女がとった行動は、家にあった貰い物のCDをブックオフに売りに行ってお金をつくること。アイドルオタクは常に複数グループの同じCDを大量購入しているため、余ったCDをまったく関係ないグループのアイドルにプレゼントするという不思議な習性があるのだが、それが彼女を救うこととなる。
〈目についたのは、オタクから頂いた大量のアイドルのCD。
「ちゃんと聴いて、iPodにも曲入れたし……いいよね……」
罪悪感に苛まれながら私はCDを袋へ入れ、ブック○フという名の駆け込み寺へ、すがる思いで持って行きました。
(中略)
「今回お売り頂いた商品の合計額は、こちらになります。」
その言葉にハラハラしながら、差し出された合計額に目をやると、『780円』という数字が――!〉
アイドルが交通費のためにブックオフへCDを売りに行っている姿はあまり想像したくない夢の壊れる光景だが、この話にはまだ続きがある。
〈「お客様たいへん申し訳ありません。商品の傷等によりこちらの1点のみ値段をつけることができませんでした。ご了承ください。」
そう言いながら、店員さんは私にCDを返しました。
そのCDのジャケットには、
『1stシングル 怪傑! トロピカル丸』と、見覚えのある文字……。
まるで、私自身に値打ちがないんだと言わんばかりに、ジャケットから微笑むもう一人の私……。〉
自分の歌が収録されているCDを売りに行って、それに値段がつかなかった時の彼女の心境を慮るとあまりにも切ない……。
貧乏エピソードはまだまだある。電車代まで節約していかないと暮らしていけない彼女にとって自転車は必需品。しかし、ある日、バイトを終えて自転車置き場に行くと、なんと、サドルが盗難されていた。だが、彼女にサドルを買い替える金銭的余裕などない。
〈このとき私は決心しました。
アイドルとして売れてお金に余裕ができるまでは、“サドルなし立ちこぎスタイル”を貫くことを!〉
この決心が、のちのち彼女に大きな傷を残すことになる。