『大人の機動戦士ガンダム大図鑑』(マガジンハウス)
ガンダムが「戦争はかっこいい」と宣伝した──。
今夏、国民の大多数の反対を無視して強行された安保法制では、多くの文化人が激しい懸念の声をあげた。漫画家・アニメーターの安彦良和氏も、そのひとりだ。
「止められないと思えるものを、どう止めるかが日本人にとって大きな課題」
「国立(競技場建て替え問題)も、安保も止められず、戦争も止められない…ではいけない。法案が通ってしまった後のことも考えなくてはいけない」(「スポニチANNEX」2015年7月16日)
安彦氏といえば、テレビアニメ『機動戦士ガンダム』(1979)のキャラクターデザインと作画監督を務めるなど、富野由悠季氏(監督)、大河原邦男氏(メカニックデザイン)と並んで“ガンダムの生みの親”と呼ばれるが、90年代には昭和初期の満州を舞台にした『虹色のトロツキー』や、日清戦争など明治時代を題材とする『王道の狗』を発表するなど、東アジアの近代史をマンガで表現してきた作家である。
そんな安彦氏が最新のインタビューでガンダムと戦争について語っているのだが、なんとそれは“アニメの罪”を示唆するものだった。
「戦争には必ず前段がある。ガンダムは舞台がいきなり戦争なので、『戦争はかっこいい』とか『弱者の抵抗として戦争は正しいんじゃないか』とかいう誤解を招いてしまった」(朝日新聞デジタル11月8日付)
たしかにガンダムは、ヴァーチャルな「戦争」を娯楽として人々に提供したとも言えるだろう。その意味で今回、その生みの親である安彦氏自身が、ガンダムが戦争賛美の風潮に影響を与えたのではないかと危惧しているというのは非常に興味深い。
そもそも『機動戦士ガンダム』は、それまでのロボットアニメにありがちだった勧善懲悪の原理を廃し、それぞれの陣営、個々の人々の理想と信念がぶつかりあう群像劇だった。それはのちのガンダムシリーズはもちろん、他のアニメにも多大な影響を与えた。もちろん、以降のアニメのすべてが右翼的で戦争賛美的だということではなく、当然『ガンダム』シリーズ作品のなかにも反戦的な要素は存在する。OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』などはまさにそうだろう。