『新・オタク経済』(原田曜平/朝日新聞出版)
ダンロップ、チェックシャツ、バンダナ、パンパンに詰まったリュック。アキバでこうした典型的オタクスタイルを見なくなってどれくらいになるのだろう。最近は代わりにこぎれいな格好をした大学生風の若者がアニメショップに出入りしている。
ファッションばかりでない。コミュニケーションも消費傾向も、かつて「アキバ系」と揶揄された時代からオタクたちの姿は大きく変わってきている。この変化を説明するのが『新・オタク経済』(原田曜平/朝日新聞出版)だ。
〈あまりにオタク然とした人を見かけなくなっており、そしてオタク一人あたりの消費金額が減ってきているのに、オタク市場全体は拡大している。つまり今時のオタクは明らかに以前のオタクから変貌を遂げているわけですが、彼らの実態とこの謎を解き明かすのが本書の目的です〉
著者の原田氏は「さとり世代」、「マイルドヤンキー」、「女子力男子」などと最近の若者をカテゴライズする造語をつぎつぎ広めてきた人物。今回の本でのキーワードは「リア充オタク」という語義矛盾のように聞こえる概念である。
「リア充オタク」とはその名のとおり、社交性が高く交友関係・恋愛関係も充実しているが、アニメ、アイドル、ゲーム等の趣味をもつ若者のこと。彼らは一般的なリア充と同じように服にも気を遣い、ダンスサークルやフェスなどいかにもリア充的な活動をする。ステレオタイプのオタク像(インドア・暗い・コミュ障等…)からはかけ離れた存在。だが、自分が「オタク」だと公言してはばからないのだ。
〈なぜ、自分をオタクだと言いたがる若者が増えているのか。それは、「オタク」というパーソナリティ属性を、自分を特徴付けるもの(キャラ)として利用し、対人コミュニケーションツールにできるようになっているからです〉
その存在が知名度を上げるにつれ「オタク」はたんなる「キャラ」になってしまった。このことに関連して著者は「オタクのライト化」を指摘する。たとえば、アニオタを自称する若者に好きなアニメを聞いてみるとメジャーな作品をせいぜい2、3本しか観ていないということが普通にある。そんな風に「オタクという言葉の意味自体が、以前と比べるとかなり軽くなってきている」という。