つまり、アマゾンの荷物を運ぶことは、佐川急便にデメリットしかもたらさなかったのだ。そして、2013年春に佐川急便はアマゾンの配送の大部分から撤退し、運賃の“適正化”、つまり値上げを進めていくこととなる。
佐川急便の撤退後、アマゾンの荷物を運ぶことになったのがヤマト運輸だ。当然、アマゾンはヤマト運輸にとって大きな負担になっており、同書では「関西地方のヤマト運輸で10年以上働き、宅急便センター長を務める近藤光太郎=仮名」なる人物が、その実情を以下のように告白している。
「これだけ荷物が増えると、現場としては迷惑以外の何物でもないですね。アマゾンのせいで、午前中の配達が一時間後倒しとなりました。一年以上たった今でも、アマゾンからの荷物は正直いってしんどいです」
さらに、荷物増加と運賃の下落は、労働環境にも影響を与える。以下も近藤の証言だ。
「多いときは、月に90時間から100時間ぐらいサービス残業をしていますね」
「何年も働いていると、サービス残業をこなすのは暗黙のルールのようになります。ヤマトは、サービス残業ありきの会社だと割り切っていますから。これを上司や本社にいっても現場の長時間労働が変わることはないだろう、と思っています」
一方、アマゾンから撤退した佐川急便についても、厳しい労働環境は変わらないままのようだ。
「佐川急便で15年近く働く首都圏のセールス・ドライバーの上原岳=仮名が働いた営業所では、一日約二時間のサービス残業があった、と話す。月間では約40時間に上る」
「上原の2014年度の給与支給明細をみせてもらうと、月によって、約50時間から80時間の残業がついている。しかし、月40時間程度のサービス残業がこれに上乗せされるのだ。上原の時間外手当は1時間当たり2700円強。月間10万円分がサービス残業となっている。年間では100万円を超える」
100万円分の年収を搾取されていると考えると、相当に厳しい労働環境といわざるをえないだろう。
過酷なうえに、給料も安く、サービス残業が強いられる宅配業界。こんな業界に入りたいと思う若者がいないのも当然のことだ。このまま行けば、近い将来、拡大するネット通販市場に対応できなくなり、宅配業界は完全にパンクするのは間違いない。そんな悲劇を招かないためにも、宅配業界の労働環境改善を推し進める必要があり、そして、そのためには運賃の適正化が不可欠になる。
(田中ヒロナ)
最終更新:2015.10.05 08:09