しかも、こうした声はたまたまではないし、青木氏が取材でそういう人たちを恣意的に選んだものではなさそうだ。
というのも、その安倍家発祥の地で最近、安倍晋三と安保法制への批判の高まりを裏付けるような出来事が起きたからだ。
この9月5日、山口県旧油谷町の文化会館「ラポールゆや」で、小林節慶応大名誉教授の講演会が開催された。小林名誉教授と言えば、衆院憲法審査会で安保法案は違憲であると主張し、安倍政権の安保法制に対する姿勢を徹底批判している憲法学者だ。
主催者は浄土真宗の住職のようだが、なんと、この講演会に異例の数の住民らが集まったのだという。
「小林先生の講演は『新安保法制は法的、政治的、経済的に愚策』と題されて行われ、かなり辛辣な安倍政権批判が飛び出したのですが、驚いたのは集まった人数です。ラポールゆやの定員は500席なんですが、全員が座れず、立ち見が大量に出た。おそらく600人はいたのではないかと思いますね。こんな人が集まるなんてこれまであまり聞いたことがない。そういえば、会場では(青木理のルポが掲載された)『AERA』も手売りされていました。主催者が買い込んで売ったらしいですが、これも飛ぶように売れてたみたいですよ」(地元関係者)
旧・油谷町の人口は長門市と合併する前で8000人ちょっと。現在は過疎化が進んで、5000〜6000人と見られている。安倍家の“お膝元”であるこの町の人口の、実に10分の1に相当する人が会場に訪れたということになる。もちろん市外からの参加者もいたと思うが、安保法制を違憲と断じ、安倍政治に批判的な憲法学者の講演会にそれだけの数が集まるというのは、前代未聞だろう。
しかし、これは言い換えれば、それくらい地元の人たちの安保法制に対する危機感が高まっているということでもある。
地元に愛され支持された祖父・寛と父・晋太郎の政治的遺産を、孫・晋三が滅茶苦茶にし、食いつぶしている──。おそらく、これが安倍家の地元から見た、安倍晋三首相の姿なのだろう。寛と晋太郎が築き上げた地盤ですら、否定的に受け止めざるをえない安保法制と晋三の人間性。どれだけ“力”で反対勢力やマスメディアを抑え込み、情報をコントロールしようが、市井の声までは隠せないということだ。
ちなみに、青木の「AERA」連載ルポは10月に再開され、次は父・晋太郎を軸に、地元・下関での安倍晋三の評判を取り上げるのではないかともいわれている。
永田町ではその強権支配によって盤石の体制を築いているように見える安倍首相だが、実は足元から少しずつ崩壊が始まっているのかもしれない。
(小杉みすず)
最終更新:2015.09.13 02:56