また、教科書内で江戸しぐさを取り上げた育鵬社についても、いまさらながら「真偽にさまざまな議論があるとして来年度からは掲載しないことを決定した」(『NEWS23』より)という。しかしながら、この新版にも、以下のような江戸しぐさの精神に通じる記述が並ぶ。
〈個性尊重が強調される中、男女のちがいというものを否定的にとらえることなく、男らしさ、女らしさを大切にしながらそれぞれの個性をみがき、高めていくことが重要です〉
〈子どもを産み育てることは人間にとって喜びであり、その営みこそが次の世代、社会をつくりあげていきます。しかし、そのためには、自分本位の生活習慣から、家族の一員としての生活習慣への転換も必要です〉
まさしく安倍首相や日本会議の主張と瓜二つだが、彼らが目指したい国、育てたい国民とはどういうものなのか、ここから透けて見えるようだ。
──国民は従順に政府に従い、個人生活に没頭することなく、家族のため、家の存続のために生活し、旗日には国旗をきちんと飾り、男は男らしく(どういうものか、よくわからないけれど)、女は女らしく(やっぱり、どういうものか、ちっともわからないけれど)ふるまい、非婚なんてとんでもなく、一定の年齢になれば結婚し、せっせと子づくりに励み、先祖代々日本人であれば必ずDNAに組み込まれているはずの「国民としての自覚をもって国際社会で主体的に生きる力を」(「」内、育鵬社の歴史教科書の編集基本方針より拝借)皆がもつ。そして人から言われなくても、「こぶし腰浮かせ」や「蟹歩き」がサッとできるような人間になり、「感謝の目つき」のように、相手の気持ちは目つきだけで間違いなくわかり、言葉によるコミュニケーションなどしなくても、異文化がぶつかり合う国際社会でだって、日本国民として主体的に生きられるはず。原発が爆発して被災地になるような所にうかうか住んでいた人は、そんなところに住んでいた自分が悪いのだから、東電や国より先に「うかつ謝り」しよう!
……「江戸しぐさ」とは、たしかに現政権にとって、すてきな教材だったのだろう。今回の報道を皮切りに、その嘘っぱちさがどんどん曝かれていくことを望みたい。
(波田幾世)
最終更新:2018.10.18 05:20