そういう意味では過剰な賛辞も当然とも言えるのだが、しかし、気になったのは、その褒めポイントだ。政治手腕や決断力、広い視野などの政治家としての資質でなく、「義理と人情と恩返しを大切にしている」「人の信用と信頼を損ねることがないし、約束は必ず守る」……。これって、どちらかというと、田中角栄や竹下登など、金権政治家、利権分配型の政治家の人物評でよく語られてきた表現ではないか。
安倍首相は首相就任してしばらくしてから会食の席で「ここまでこれたのは見城さんのおかげだ!」と発言したというが、見城氏はもしかして、何か「恩返し」を受け、「約束」を果たしてもらったのだろうか、などといらぬ邪推までしたくなるのである。
実際、見城氏の安倍首相に対するアプローチにはたんなる“お友達”以上の思惑も見え隠れする。本サイトでは、テレビ朝日の早川洋会長、吉田慎一社長などを引き合わせたと報じたが、見城氏が安倍首相と会うとき、一番、多く同席させているのは、実はIT、ベンチャー企業の経営者だ。
12年11月には、安倍首相に三木谷浩史・楽天社長(経済団体『新経済連盟(新経連)』代表理事)を官邸で引き合わせたこともあるし、若手IT経営者による安倍首相を囲む会合も主催している。この会には、楽天の三木谷社長はじめ、GMOインターネットの熊谷正寿社長、サイバーエージェントの藤田晋社長、avexの松浦勝人社長、ネクシィーズの近藤太香巳社長が参加し、事務局長は損得舎の佐藤尊徳社長がつとめている。
先述した「組閣ごっこ写真」を撮った会食の際も、やはりネクシィーズの近藤社長、GMOインターネットの熊谷社長、損得舎の佐藤社長が同席していた。
実は、最近の幻冬舎は、出版事業のみならずコンサルティング業務など別の事業にも進出している。そこには見城氏の「僕は出版物の未来には、明るい展望をまったく抱いていない」「一番駄目なことは現状維持に安住することなのだ。だから、出版部門だけでは食えなくなると予想し、暗闇の中でジャンプするのである」という考えがある。
もしかしたら、見城氏は、時の首相とIT、ベンチャー企業の経営者をつなぎ、なにか新しい国家的なプロジェクトへの参加を画策しているのではないか? そして、元少年Aの手記を他の出版社に押し付けたのも、そのことと関係しているのではないか? そんな想像さえ頭をもたげてくるのだ。
世間からの逆風が予想できる本を出版したら、せっかく関係を築いた安倍首相から協力を断られ、遠ざけられる可能性がある。それで自社での出版をあきらめたのではないか、と。