米軍基地問題も同様だ。野党時代に出版した『なぜ自民党の支持率は上がらないのか』(幻冬舎/2012年)では、米軍普天間飛行場の移設問題で迷走した民主党の鳩山政権を強烈に批判し、「国の安全保障において、一番必要なのは信頼関係の再構築であり、そのためには、政府・総理・官房長官はもっと沖縄に足を運び…沖縄に対する配慮と誠実な姿勢を示すべきである」と言い切っている。
安倍首相の前でも、ぜひ同じ啖呵を切ってもらいたいと思わせる堂々たる言説だが、もちろん今はそんなことは口が裂けても言わないし、それどころか、中谷自身も防衛大臣なってからはなかなか沖縄に行こうとしなかった。
ただ、こうした過去の言動を引き合いに出して、中谷を「リベラル派から転向」したと糾弾するのは、いささか単純すぎるかもしれない。
大方の人は忘れているかもしれないが、中谷は、自民党憲法調査会の改憲案起草委員会座長を務めていた2004年、「リベラル」とはまったく逆の方向の“事件”を引き起こしたことがある。
陸上自衛隊中枢の陸自幕僚監部の二等陸佐が「軍隊の設置」や「集団的自衛権の行使容認」などを盛り込んだ憲法改正案を作成し、それを密かに中谷に渡していたのだ。しかも、依頼したのは中谷とされ、陸自幹部の考えは、自民党の憲法改正草案に反映されたという。
作成者の二等陸佐は「陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班」という制服組の中枢中の中枢に属しており、中谷が受け取った文書は「草案」「改正案」の二つに分かれていたとされる。いったい、どんな内容だったのか。
「草案」に盛り込まれていたのは(1)侵略戦争の否定(2)集団安全保障(3)軍隊の設置、権限(4)国防軍の指揮監督(5)国家緊急事態(6)司法権(7)特別裁判所(8)国民の国防義務──の8項目で、それぞれの条文を列記していた。それらの条文は、例えば、「国の防衛のために軍隊を設置する」「集団的自衛権を行使することができる」などと極めて具体的。首相が「緊急事態の際は国家緊急事態を布告」できるという条文や、「すべての国民は国防の義務を負う」などの条文が盛り込まれていた。さらに、軍事裁判所を念頭に置き、「特別裁判所」の設置にも触れている。
一方、「改正案」は、「集団的自衛権、並びに国連の集団的措置(集団安全保障)に基づく武力行使の容認」について「必要不可欠」と強調。これらを実現すれば「日本が攻撃された場合に米国等の防衛(日本以外を標的とするミサイルの迎撃を含む)」「有志連合軍に参加しての戦闘行動(アフガン、イラク等)」が可能になる、などと記されていたというのだ。