一方で男性作家の間では、〈ひたすら性技で女性に奉仕する男性たちが登場する傾向〉が強くなっていたという。たとえば、〈気功師として教室で指導もしている北山悦史は、その技を堪能小説にも活用していると見られる作品を数多く発表〉し、人気を博した。
91年に入ると、牧村僚がデビュー。別名、「ふともも作家」の牧村である。
〈ふとももへの執着と同時に、年上の女性、とりわけ肉親的な母親へのあこがれを性にからめて描く作品が〉多かったことがゆえんだそうだが、いわゆる「マザコン」が話題になるなど、社会の風潮にもその傾向は強かったという。
同様に、93年にも社会を反映した官能小説が登場。〈女子大生作家として話題を呼び、その後の活躍で女流官能の新しいピークになった内藤みか〉は、〈クロネコヤマトの宅急便がスタートしてからこの年で17年〉で、〈ピザなどの宅配もごく日常的に家庭に入り込むようになってきた〉この頃、それをすかさず不倫と結びつけた『はじめての不倫 快楽宅配便』(河出i文庫)を描いている。
96年にアトランタオリンピックでビーチバレーが正式種目になると、〈この艶姿と男性たちの淫らな妄想を取り入れないはずがない〉とばかりに、藤隆生の『ビーチの妖精姉妹 隷辱の誓い』(竹書房ラブロマン文庫)が登場。内容は、〈色白で巨乳のプロ選手として活躍する24才の姉が、日本代表を夢みる20才の妹とともに奸計に陥り、磔台に固定されて、スポンサーといわれる男たちに責めを受ける〉といったものであった。
「アキバ系」や「萌え」が流行しはじめた2004年頃には、萌えのジャンルのひとつであった「メガネっ娘」が官能小説にも登場、開田あやが『眼鏡っ娘パラダイス』(二見ブルーベリー)で、眼鏡萌えを忠実に表現している。
《浩史はゆっくりと抽送を続けながら、レンズの奥の香奈の瞳を覗き込むようにして囁いた。
「眼鏡を外しちゃいけない……頼むから、かけたままで……かけたままでいてくれ……」》
翌年も「萌え~」の流れは途切れず、睦月影郎が『萌肌 かがり淫法帖』(廣済堂文庫)、『忍萌』(講談社文庫)、『変萌』(講談社社文庫)などシリーズ化している。
06年になると、AVではすでにセンセーショナルなジャンルとして登場していた「潮吹きもの」が、官能界にも現れる。草凪優『深なさけ』(徳間文庫)の一節を見てみよう。
《「ダ、ダメッ……吹いちゃうっ……そんなにしたら吹いちゃいますうううっ……はぁおおおおおおおおおーっ!」
玲美は絶叫を轟かせて、股間から飛沫を飛ばした。端正なモデル顔をくしゃくしゃにして、ゆばりとは違う透明な分泌液をクジラのように吹きあげた》