『東京劣化』(松谷明彦/PHP研究所)
「TOKYO」――。2013年9月7日、「運命の日」。ブエノスアイレスで開かれたIOC総会でジャック・ロゲ会長(当時)は2020年夏季オリンピック開催地を、こう宣言した。現地でプレゼンテーションを披露した安倍晋三首相や滝川クリステル、太田雄貴のみならず、日本中が歓喜熱狂した瞬間だった。
この年、昭和の名横綱・大鵬が世を去り、福知山花火大会の爆発事故では62名が死傷。福島第一原発の汚染水漏れが発覚、トラブルの深刻さを示す評価尺度は「レベル3」に引き上げられ、「国の借金」は初めて1000兆円を超えた。オリンピック開催決定はそんな暗澹たる世相を吹き飛ばす「福音」となった。
特に浮かれまくったのは経済界。東京都はオリンピック開催の経済効果を13年から20年の7年間で計2兆9609億円と試算したが、SMBC日興証券は約4.2兆円と上方修正。「ご祝儀相場」はこれに留まらず、森記念財団は国民の消費拡大と企業活動の活発化など「ドリーム効果」を加算し19兆4000億円とぶち上げた。揚句の果てにみずほ総研は28.9~36兆円にまで吊り上げた。
結局あれから2年、日経平均株価は20000円台を回復したものの、市民レベルの暮らし向きは一向に変わることなく今に至る。一体あの騒ぎはなんだったんだろう。
3月に出版された『東京劣化』(松谷明彦/PHP研究所)はそんな違和感を抱き始めた人々に、あるいはいまだに希望を捨て去れない人たちに冷酷な現実を突きつける。著者は大蔵省主計局、大臣官房審議官等を歴任した財政学、人口減少研究における第一人者である。具体的に試算されたデータとマクロ経済学、社会基礎学の法則を駆使し、「東京オリンピック」前後に起こりうる「東京の現実」を暴き出している。
まず人口構造の悪化はすさまじいことになる。2010年に対し2040年には東京の高齢者は143.8万人増加し、1119.5万人に達する。人口は6.5%減に対して高齢者は53.7%も増加する。すでに高齢化のピークにある秋田県は人口は35.6%減だが、高齢者も4.5%減るのとは対照的だ。40年、東京の労働力高齢化は全国一となり、労働力、作業能率は能率は劣化する。
出生率は2012年時点で東京は1.09と全国で最低(全国平均は1.4)。生涯未婚率(2010年)は男女ともに最多で男性25.25%(全国平均20.14%)。女性17.37%(全国平均10.61%)。東京は今ですら全国でダントツの少子高齢化の進んだ人口劣化都市なのである。