さらに、待機児童問題が社会問題になるや、国を挙げての対策がとられ、民間企業の参入も急速にすすめられた。しかし、それは、前述のように現場の疲弊と混乱、そして保育の質の低下をもたらした。
「(今年)国が『子ども・子育て支援新体制』をスタートさせ、保育の認定や保育料、保育所運営のスタイルまで、がらっと変わることになった。既存の幼稚園や保育所に加え、認定こども園の普及も図る。『親の就労に関係なく子どもに保育と教育を』が掲げられているが、現場は大混乱となっている」
そして安倍政権が謳った「女性の活躍」の裏にも予算削減と待機児童問題があったと指摘する。
「(安倍首相は)『三年間抱っこし放題での職場復帰』と言って、民間企業の育児休業を現行の一年(場合によっては一年半)から三年に拡大させようとした。まさに、待機児童の多い年齢は家庭で、という発想の裏返しかもしれない」
「女性の活躍」「待機児童解消」という名目のもと、行われているのは予算カットと民間の参入による保育の質の低下、そして保育士にとってのさらなるブラック企業化というわけだ。
本書ではこれを改善するためには、まず保育士の処遇の改善が必要だと指摘する。そして周囲の大人が保育に目を向けるべきだと。
「幼い子どもたちの不利益を代弁するのは大人の役割だ。保育の現場で今、何が起こっているのかを直視し、保育の量だけでなく、その質についてもきちんと目を向けなければならない。良い保育の実現に向けて、保育所と一緒になって保護者や周囲の大人ができることが必ずあると信じている」
現場の崩壊を食い止め、子どもたちの安全と命を守るため、また働く女性が安心して子育てできる環境を作るためにも、保育を“地獄”から救い出す必要がある。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.05.12 07:04