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待機児童解消の掛け声の裏で「保育現場」が崩壊! 虐待、保育士の疲弊、ブラック化…

 もちろん、そこには保育士の個人的資質では済まされない背景がある。そのひとつが保育所じたいが“ブラック企業”と化していること。保育士は多忙だ。株式会社が大展開する新設の認可保育所で働いた山本美穂子さん(40歳 仮名)の体験談は壮絶である。

「保護者のサービスを重視するため、午睡用のシーツを付け替えるのもすべて保育士の仕事とされていた。コストダウンのため、おしぼりを洗うのも職員で、洗濯機は常にフル回転した。トイレ掃除も保育士が行った」

 さらに食事や排泄、子どもを遊ばせるなどの通常の保育士の仕事、連絡ノート、保護者向けの日誌、個別指導計画などの事務仕事や各種行事もある。早番や遅番などのシフト制だが時間通りに出勤しては園児の様子が分からないので2時間前倒しで出勤し、休憩の時間もない。終わらない仕事は持ち帰るというひたすら慌ただしい日々だった。これで給与は短大や専門学校卒で一律18万円、4大卒で20万円で残業代は一切なしだ。この間、山本さんは一度も自分の子どもに夕食を作ることができなかったという。

「職員は、疲れ果てて安全を保つのがやっと。朝は自由遊びをして、おやつ、昼食、午睡と、1日やることをこなすだけ。食べるのが遅い子がいると、若い保育士が後ろに立って茶碗とスプーンを持って、子どもの口のなかへかきこんでいった」

 まるで虐待にも見えるが、しかし保育士もまた、殺人的な忙しさと不安定な雇用形態にさらされているのだ。多くの保育士が短期間で退職してしまい、人手不足も深刻だ。うつ病を発症してしまった派遣保育士もいたという。

 そして、こうした状況は子どもたちの安全をも脅かす。14年6月には京都の認可保育所で用務員の職員が5歳の園児を園庭に投げ出し、1人が頭蓋骨陥没骨折の重症を負う事件も起こっている。

「事件当時、5歳児のクラスが体操をしている時間帯、担当保育士がいなかったことから用務員が配置され、保育士資格のある職員がいないという体制だった」

 このように“地獄絵図”と化し、崩壊しつつある保育の現場だが、その最大の原因は国や地方自治体の予算の少なさと、現場を知らない政治家が人気取りのために行う待機児童解消策だと本書は指摘する。

 現在、実質的な保育運営費は国の予算比率でわずか0.2%に過ぎない。しかも、「運営費(補助金)の人件費部分の積算基準が低く抑えられたままであること」と「現場の実態にあわない不十分な職員配置基準」の二点によって、保育士の処遇は一向に改善されないままだ。

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