『美貌格差 生まれつき不平等の経済学』(東洋経済新報社)
きちんと揃えられたボブカット。整った顔を崩すことなく冷静に語る佇まい。そのクールビューティーなオーラで会見に臨んだ「大塚家具」の大塚久美子社長が画面に登場したとき、なんだか最初からこの結末はきまっていたんじゃないかと錯覚させられた。
先月27日、お家騒動で揺れる大塚家具の株主総会が開かれた。当初は父である勝久会長との「勝負」は接戦と見られていた。だが結果的に久美子社長は61%の票を集め、勝久会長含め大塚家を除く一般投資家に限って言えば8割の支持を得る、という圧勝だった。
乱暴な推察だが、この結果を招いたものは、冒頭に記した久美子社長の風貌に起因するかもしれない。失礼ながら戦後闇市世代を彷彿とさせる父と、銀行員出身で経営コンサルもこなした手腕に加えて凛とした存在感を放つ娘とは、これからの経営者として、株主や消費者がどちらに期待するかは明らかだったとも思える。美しさというのは理屈のない説得力を孕んでいる。
そもそも、何よりこの騒動にこれだけメディアが食いついたのも、美に対するどうしようもない好奇心と視聴者の興味を当て込んだからであろう。同じ女性社長でも「APAホテル」ではこうはなるまい。
同様に、STAP細胞発見で小保方晴子氏にあれだけメディアが注目し、その後激しい論争を生んだのも、その美貌ゆえに騒動が拡大した面も否めないだろう。女性ばかりではない。仮に小泉進次郎の風貌が山本一太だったら、ここまでの支持を得ただろうか。
そんな人の「美」がもたらす理不尽な影響をアメリカの労働経済学者、ダニエル・S・ハマーメッシュはこのほど『美貌格差 生まれつき不平等の経済学』(東洋経済新報社)を著して論じた。何せタイトルからして「生まれつき不平等」と決め打ちだ。「残念な人」はもはや立つ瀬がない。氏は20年かけて、美貌と経済学の因果関係を研究。「美形のお得度を真面目に測った史上初の本」「見た目で生涯年収の差は2700万円?!」と惹き句は煽るのだが本当だろうか。
《見栄えのいい人の方が稼ぎがいい、誰もがそう思っている》
《美人プレミアムや醜人ペナルティが一般的にどれくらいの大きさか、かなりよくわかっている》
醜いことってペナルティなのか?と虚を突かれるが、その論拠はこうだ。70年代のアメリカの調査として、外見が平均より上の女性は平均の女性より8%収入が多く、平均より下の外見のご婦人は4%低かったという。同様に男性では平均以上はプラス4%、以下はマイナス13%の収入だったという。意外にも女性は美醜による格差が少ないのに対して、ブサイクな男は散々な目に遭っていることになる。そんな殺生な。