ただ、すべての女優がそんな松尾の期待に応えられるというわけではない。とくに“脱ぐか、脱がないか”というシビアな問題もある。たとえ「必然性があるのに脱がないのは不自然」なシーンでも、そこには折衝が待っている。
「ベッドシーンで女優の胸のところまでキツキツにシーツ巻いていたりね(笑)。谷間すら見せず、そんなんでどうやってセックスするんだよ!という」
しかも、折衝相手は女優本人というより、所属事務所であるらしい。
「マネージャーと別室で話し合うこともありますよ。胸の絵を描いて、線を引きながら『バストトップまでならいいのか』『いや、肩から下はダメ』とかやり取りして露出のガイドラインを決める。胸の谷間はいいけど、横から下から見えるのはいやらしいからダメとか、細かく規制されるんですね。タンクトップの横からはみ出している胸がいいと思うんだけど……。エロスはアートだからいいけど、エロはダメというわけです」
このように、女優論からエロス/アート論まで語り尽くしている松尾のインタビュー。しかし一点、不自然に感じられるのは、松尾が女優開眼させた人物として多くの人の頭に浮かんでくるであろう、酒井若菜の話は一切出てこない点だ。
松尾は04年に監督した『恋の門』で酒井を主演に抜擢。それまでグラビアアイドルのイメージが強かった酒井を見事に演技派女優として印象付け、その後も松尾演出の舞台『キレイ─神様と待ち合わせした女─』(05年)に主演が決まっていた。一説には、酒井はこのとき連続ドラマの主演オファーを蹴ってまで松尾の舞台を選んだといわれているが、なぜか舞台初日の18日前に降板を発表。表向きには病気が降板理由だったが、一部報道は松尾と酒井の不倫関係が松尾の妻に発覚したことが降板につながったのではないかと見られていた。そんな騒動以降、それまで勢いが嘘のように酒井をテレビで観る機会はぐっと減り、ようやくNHKの朝ドラ『マッサン』で復活を果たした……というわけだ。
やましいことがないのであれば、この機会に女優としての酒井の魅力にも言及してほしかったが、それはなし。他方、女優と恋愛、結婚を繰り返してきた野田秀樹は、元恋人・大竹しのぶの実娘であるIMALUとの同居生活も隠さないが、さすがに不倫ではそうもいかないのか。というよりも、女優との恋愛沙汰をネタとして割り切れないナイーブさこそ、松尾らしさなのかもしれないが。
(大方 草)
最終更新:2017.12.23 07:12