ジャーナリストになる前の後藤さんが勤務先のスポーツジムで金銭トラブルを起こしていたとか、風俗店を経営していて羽振りがよく〈二万円もするランチを食べたり、プジョーを乗り回していました〉とか、後藤さんが反論できない状況のなかで、事件とは直接関係のない噂話の類が延々と続く。戦場取材についても、〈通常はガイドに支払うギャラは一日五十ドルくらいですが、彼は倍以上払っていた〉〈テレビ局は提供した映像を二次使用で勝手に使ってしまうこともあるのですが、彼はきっちりと二次使用のギャラも要求していました〉〈映像が番組で流されれば、10分間で二百万円から三百万円ほどのギャラをもらえます〉と、いかにもカネの亡者のような書き方なのだ。
そして、後藤さん自身や後藤さんの両親の離婚歴を暴いた上で、〈後藤さんの現在の自宅は赤坂の一等地にある。「自宅は赤坂サカスにほど近いマンション。(中略)生活は裕福だった印象があります」〉と、ダメを押す。日本中が後藤さん、湯川さんの無事救出を願い、「イスラム国」の卑劣な手口に怒っている時期に、まるで後藤さんが救出するに値しない人物であるとでも言いたげなのだ。当時、「週刊ポスト」(小学館)をはじめとする週刊誌では政府対応の問題点を批判する記事が喧しかった。ところが、「週刊文春」の4ページに渡る記事では政府の対応についてはただの1行も触れていない。ひたすら後藤さんの悪口が繰り返され、シリアへの入国についても〈結果として、(中略)人質交換交渉にヨルダン政府を巻き込む外交問題に発展してしまった〉と、切り捨てる始末だ。永田町関係者は、こう解説する。
「後藤さんをターゲットにした印象操作の典型ですね。当時、安倍官邸は人質事件が政権批判に発展しないか、相当ナーバスになっていた。テロに屈しないというのは、人質の救出をほぼ諦めたに等しい判断です。そんななか、とくに後藤さんは戦禍に苦しめられる市民を描くジャーナリストとして世間から好印象を持たれていたので、なんとかネガティヴな情報を流したかったんでしょう。官邸もあの時は必死だったと思います」
先の文春社員も言う。
「後藤さんの家族に関する話や金銭トラブルなどは官邸筋からの情報だったと聞いています。官邸が内調(内閣情報調査室)に調べさせたんでしょう。いま新谷編集長が“チーム安倍”でもっとも近いのは菅さんなので、そのルートから情報がもたらされたと聞いています。これまでの新谷編集長はいくら個人的に親しくて日常的に情報のやりとりがあるといっても決してベッタリにはならない人だったんですが、この頃から、官邸リーク情報がすごく増えてきた」
実際、「週刊文春」が官邸のスピンコントロールを“請け負った”のはこの1回だけではなかった。ごく最近も同じようなことがあり、文春社内に大きな波紋を広げている。
4月9日号の〈電波ジャック「報道ステーション」古賀茂明VS古舘伊知郎 「内ゲバ全真相」〉の記事だ。ご存知、さる3月27日のテレビ朝日「報道ステーション」でゲストの古賀茂明氏が自らの“降板”のいきさつと官邸からバッシングされた事実を暴露し、司会の古舘伊知郎氏と言い争いになった事件の内幕記事。前週末のドタバタ劇を天下の文春がどう料理するか読者も楽しみにしていたところだが、その内容は〈麻布→東大法→経産省 挫折エリートの得意技は隠し録音とリーク〉〈古賀アフリカ行きにも同行 「更迭プロデューサー」夫は朝日政治部長〉〈「橋下徹」「細川護煕」と訣別 古賀の秘策は「ロンブー淳新党」⁉〉といった見出しを見ればお分かりのとおり、古賀バッシング一色だった。先の永田町関係者は言う。
「あの時も官邸は非常な危機感を持っていた。古賀さんは生放送で、官邸のメディアコントロールの司令塔でもある菅さんを名指しで批判していましたからね。世間の注目が菅さんの古賀バッシングや“官邸の圧力”に向かないよう、なんとか古賀さん個人の問題、『古賀VS古舘』の内ゲバだったということにしたかったんです。あれは、そんな官邸の願望をそのまま記事にしたようなもの」