今年3月、訪日した独メルケル首相と会談する安倍晋三首相(首相官邸ホームページより)
安倍政権のメディアへの圧力がとどまることを知らない。衆院選でのテレビキー局への恫喝文書、先月の古賀茂明降板をめぐる圧力に加え、アベノミクスをめぐっても政府が「放送法」を盾に『報道ステーション』へ圧力をかけていたことが判明した。
しかも、その報道圧力は海外メディアへも波及していることが、ここにきて明らかになり始めた。
今月2日、ドイツの保守系高級新聞紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)の記者、カーステン・ゲーミス氏が、日本外国特派員協会のウェブサイト上に、「ある海外特派員の告白 東京で5年間勤めた彼からドイツの読者へ」と題した文章を発表した。
その内容は衝撃的だ。そこには、安倍政権の海外メディアに対する情報統制のやり方が、詳細に書き込まれているのである。
約5年前にFAZの特派員として来日したゲーミス記者は、ドイツへ帰国する支度がととのったとして、こういう風に書き始める。
「私が離れようとしているこの国は、2010年の1月に私が到着した国とは別のそれになっている。表面上は同じように見えるけれども、日本社会の雰囲気──それは最後の1年間の私の記事に一層反映されているのだが──は、ゆっくりと、しかし著しく変化していっている」
ゲーミス記者は、日本の指導者層の思惑と海外メディアの報道との間に「ズレ(gap)」が生じ、日本にいるジャーナリストたちの仕事を難しくさせていると書く。そしてこう続ける。
「そのズレは、安倍晋三首相が牽引する、ある歴史修正の動きによってもたらされているものだ」
FAZは、政治的には保守、経済的にはリベラルな立場の新聞だとゲーミス記者は前置きしつつ、それでも、同紙は、安倍首相の歴史修正主義は危ないものであるという見方を示してきたという。
「ドイツならば、自由民主主義者が侵略戦争の責任を否認するなんて想像もできないことだ。もし、ドイツにいる日本人が不快な経験をしているとすれば、それはメディア報道のせいではなく、ドイツ人の歴史修正主義に対する嫌悪感のせいだ」