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ノーベル平和賞最年少受賞マララの知られざる二つの顔

『アグリー・ベティ』を見て、ニューヨークに行ってみたい、出版社で働いてみたい。海外ドラマや海外セレブに憧れる日本の女の子ともたいして変わらない、いたってふつうの感想だ。こういうのを欧米に毒されていると批判する人もいるのかもしれないが、マララは欧米文化をなんでも無批判に享受しているわけでもない。

 たとえば、ブリトニー・スピアーズやサカナクションの山口一郎など、世界中のセレブたちが愛読するパウロ・コエーリョのスピリチュアル小説『アルケミスト──夢を旅した少年』を読んだ感想。羊飼いの少年が宝物を探してピラミッドへ旅するというストーリーは気に入ったらしく、繰り返し読んだという。しかし同書の最大のメッセージである「人がなにかを手に入れたいと思ったら、宇宙全体が示し合わせて、その手伝いをしてくれる」というくだりには、

「著者のパウロ・コエーリョはタリバンに出会ったことがないんだと思う。パキスタンの役立たずの政治家たちとも縁がないんだろう。」

 とツッコミを入れる。「意識さえ変えれば幸せが手に入る」というアメリカ的な自己啓発思想は、マララの目にはぬるく映るのだろう。

 本書を読んでいると、マララも愛読していた『アンネの日記』のアンネ・フランクを思い出す。
 
 ジャスティン・ビーバーがアンネの家を訪れた際に、「アンネは(今の時代に生まれていれば)きっと僕のファンだったね」とゲストブックに綴り、「不謹慎だ」「アンネはそんなコじゃない」と世界中から非難を浴びた。でも、ジャスティン・ビーバーの言う通りだ。アンネは映画スターのブロマイドを壁に貼ったり、安っぽい恋愛小説を愛読するような女の子だ。特別優等生なわけでもない、ふつうの女の子だ。聖なる少女が殺されたわけではない。ごくふつうの女の子の日常を奪ってしまったことが、ユダヤ人虐殺の恐ろしさであり、戦争の恐ろしさだ。

 マララはたしかに聡明で勇敢な少女だ。でも、アンネと同じようにマララも、ジャスティン・ビーバーの歌について親友とおしゃべりするような、ふつうの女の子でもある。学校に行きたい。テストで友だちよりいい点を取りたい、新しいことを知りたい、おもしろい物語を読みたい、愛する人に詩を贈りたい。ふつうの女の子がこう願っていることに意味がある。
(酒井まど)

最終更新:2014.12.11 06:34

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