さらに今年、ワイドショーや雑誌を賑わせた“家事ハラ”も、悪質な誤用例だ。以前、本サイトでもお伝えしたように、“家事ハラ”はジャーナリストの竹信三恵子が2013年に出版した『家事労働ハラスメント──生きづらさの根にあるもの』(岩波新書)が最初に定義したもの。本書では、食事の支度や後片付け、洗濯、掃除、育児、介護といった「労働」が正当に評価されず、それが女性の貧困や生きづらさにつながっていることを指摘。“家事ハラ”を「家事労働を蔑視・軽視・排除する社会システムによる嫌がらせ」として位置づけている。
にもかかわらず、旭化成ホームズが“夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為”という真逆の使い方でアンケートの実施やキャンペーンを展開。この誤用には抗議が殺到したが、テレビや雑誌ではまちがったままの意味で使用され、メディアでは「家事を手伝う夫を罵る妻たちの実態」「夫が受けた妻からの“家事ハラ”」といった特集が氾濫した。
こうして誤用例をひとつひとつ上げていくと、すべてにおいて“改悪”が行われていることに気付くだろう。
前述の竹信は、“家事ハラ”の定義のすり替えに対し、これまでも同じようなことが繰り返されてきたと述べる。
〈職場での性による排除という深刻な人権侵害を表す言葉〉だった“セクシュアルハラスメント”が、〈男性週刊誌を通じて「お尻などに触る程度のお遊び」「社内恋愛」として広められた〉こと。〈仕事を分け合って失業を防ぐ〉という“ワークシェアリング”が、〈日経連によって「賃下げで失業を防ぐこと」と定義を変えられ、記者会見で「ワークシェア=賃下げ」が繰り返された〉こと。〈女性と対等に気軽につきあえる新しい男性像〉を示す“草食男子”が、〈雑誌などを通じて「恋愛もできないダメ男」の意味へとすり替えられていった〉こと。こうした実例を挙げた上で、竹信はその構造をこのように分析している。
〈共通するのは、発言権を持つ層が、自分たちに都合の悪い新語の意味を「わかりにくい」として言い換え、マスメディアを駆使してそれを拡散し、本来の改革的な要素を骨抜きにしていく手口だ〉
社会に蔓延る価値観を転覆しようとする言葉を、反対に保守的な意味へと差し替えるメディアの下劣さ。こうした意図的な言い換えは、「うっかり間違えちゃいました!」という話では済まされない問題である。
(田岡 尼)
最終更新:2018.10.18 03:15