百田が本人の結婚歴にふれないという判断をしたというのなら、ただそれを書かなければいいだけの話。だが、百田はわざわざ彼女が独身だという嘘を書いているのだ。本当に結婚歴を知っていたとしたら、これはノンフィクション作家として致命的だろう。
また、「本人ができれば知られたくないというプライバシーを明かす必要があるのか」などという言い訳にも唖然とさせられた。それは、そもそもこの本じたいがプライバシーを商売にしているのに何をいってるんだ?というツッコミだけではない。こんなきれいごとをいっている一方で、さくら夫人と対立しているたかじんの娘やマネージャーK氏についてはこれでもかとばかりに、本人の名誉を傷つけるようなプライバシーを暴きたてているからだ。
たかじんの娘については、「なんや食道ガンかいな。自業自得やな」といったメールを送ってきたことに加え、彼女がたかじんにずっと金をせびっており「娘の頭の中は金しかない!」とまで書いている。
また、Kマネージャーについても、手術の翌日に女遊びをしていたといったエピソードを暴露し、事務所の「帳簿をいじっていることが判明した」「一千二百万円近い使途不明金があることが明らかになった」「大阪のマンションから、たかじんの私物のいくつか、それに金庫の中の多額の現金が紛失していたのだ」と、まるでKが犯罪に関与しているかのような書き方をしている。
『殉愛』出版直後から、本サイトが一貫して問題にしてきたのはまさにこのことなのだ。さくら夫人の一方的な情報、主張だけで、裏もとらずに構成する、さくら夫人のことは天使のごとく描写しながら、他方で娘やマネージャーを悪者として描く。このノンフィクションとは思えない詐術に満ちた手法が、こういう問題を生み出したのではないか。
こうした『殉愛』の手法に対し違和感を表明したのは、最大のヒット曲「東京」をはじめ、たかじんに数多くの楽曲に詞を提供してきた作詞家・及川眠子氏だ。
及川氏は〈私はヨメとマネージャー双方に会った、たぶん数少ない人間の一人。しかもどちらの味方でも敵でもない(つまりどっちに付いても私の得にも損にもならない)フラットな立場。勿論たかじん本人も知っている。そういう人間に会うのは不都合があったのかな?〉としたうえで、こうツイートした。
〈男女間の真実なんて当人たちにしかわからない。私が怒っている理由はただ1つ。なぜウラも取らずに、1人の人間を犯罪者だと決めつける? ノンフィクション作家を名乗るのであれば、きちんと本人に取材すべき。あの本にはそういった「正当性」がまったくない。〉
〈百田さんがTwitterで「実態も真実も何も知らない第三者が、何の根拠もなく、匿名で人を傷つける」と怒ってらっしゃったので、実態と真実をちょぴっとだけ知ってる人間が、ちゃんと実名を出して問うている。でも答えてもらえない。私じゃ役不足ですかぁ?〉