『ニッポンの経済学部 ──「名物教授」と「サラリーマン予備軍」の実力 』(中公新書ラクレ)
経済・経営学部で教えるのは「マイケル・ポーター、戦略論」ではなく「簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方」──。
10月7日に開催された文部科学省の「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」に提出された資料がネットに公開され、議論を呼んでいる。資料の提出者は、株式会社経営共創基盤代表の冨山和彦氏。
冨山氏といえば、41社の支援決定を行った産業再生機構の設立に参画、代表取締役専務兼最高業務執行責任者(COO)を務め、2009年には政府のJAL再生タスクフォースサブリーダーにも就任したことで有名な経営コンサルタント。いわば企業再生のプロだ。
文部科学省の有識者会議に提出された資料「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」でも、「グローバル経済圏(Gの世界)」は、グローバル競争にさらされる産業であり、自動車や医療機器、IT産業などが該当。知識集約型で、高度な技能の人材が中心となる。一方で、「ローカル経済圏(Lの世界)」は、交通や飲食、福祉など国内のサービス業が該当。労働集約型で、平均的な技能の人材が中心となるとし、「グローバルで通用する極めて高度のプロフェッショナル人材」を輩出できるトップ大学以外は、大半を「生産性向上に資するスキル保持者」を輩出する職業訓練の場とすべきと提言したのだ。
たとえば、「L型大学で学ぶべき内容(例)」として、「文学・英文学部」は「シェイクスピア、文学概論」ではなく「観光業で必要となる英語、地元の歴史・文化の名所説明力」を。「法学部」は「憲法、刑法」ではなく「道路交通法、大型第二種免許・大型特殊第二種免許の取得」を。そして、「経済・経営学部」で教えるのは「マイケル・ポーター、戦略論」ではなく「簿記・会計、弥生会計ソフトの使い方」だという。
すべてを「生産性」で評価しようとする冨山氏の発想は、徹底した経済の論理によるもの。「学術研究を深める」ことなどまったく無意味で、「もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育」こそが必要だと考える安倍首相の考え方と共通するものだ(2014年5月6日のOECD閣僚理事会基調演説)。
実は冨山氏が提言しなくても、すでに、文部科学省が主導した形で、民間企業も真っ青な、徹底した市場原理による大学支配が強まっている。
国立大学は「教員養成系、文系の廃止」への流れが加速している(「国立大学から文系学部が消える!安倍首相と文科省の文化破壊的“大学改革”」)。この9月にはスーパーグローバル大学創成支援事業に私立を含めた37大学が採択され、国が補助金を支給することになっている。つまり、このスーパーグローバル大学に選ばれなかった大学は「L型大学」化して、「生産性向上に資するスキル保持者」を輩出する専門学校化せざるをえない流れができつつあるのだ。