小さい頃から背の高かった冨永は、その高身長もイジメのネタにされていた。身長がこれ以上伸びないようにと、14歳のからタバコを吸った。モデルとしては圧倒的に有利なこの特長は、しかし冨永のコンプレックスになったのだ。
「ここからいなくなれば、幸せな世界に行けるのかもしれない。
いじめもなく、やさしいお母さんとお父さんのいる世界に」
母に甘えたい。本当の友人も欲しい。それなのに誰も分かってくれない。そんな感情が高ぶったある日、中学生だった冨永は自殺未遂を図ったという。
「わたしは包丁を持ったまま風呂場に入り、空の風呂桶の中で身体を折り畳んだ。右手につかんだ包丁の刃を顔の前に立てて、しげしげとよく見た」
「左の手首に刃を押し当てた。やろう。右手に力を込めた」
しかし死ぬことへの恐怖に、冨永は自殺を思い止まる。
「裸でバスタブの中で膝を抱え込み、わんわん泣いた」
そして冨永はこのとき決意したという。
「みんな、みんな、ぶっ殺してやる!」と。
こうして冨永の人生が赤裸々に語られるのだが、しかしさらに衝撃的な記述が存在する。
「痛い! 痛い!
頸椎と足首に冷たい鉄枷をはめられて、その先には重たい鎖がぶら下がっている。赤錆びて壊れたベッドの上で、わたしは身動きがとれない。
怖い! 怖い!」
「真っ裸の男二人が、ほくそ笑みながら。わたしを万力で締め上げる。皮膚が破れ、筋繊維が破裂し、骨が音を立てて砕ける」
直接的な表現こそないが、まるでレイプすら連想させる記述なのだ。
直後、「ハッと目が覚めた」とあり一見夢のようにも取れるが、しかしその後も「ぶるぶる震えが止まらない。恐怖で震えが止まらない。(略)わたしは喉が張り裂けそうなほどの叫び声をあげた。涙があふれて止まらなかった。失禁していた。」と続き、単に怖い夢を見ただけとは思えないほどのリアルな恐怖を冨永が感じていることがわかる。本書では現実とも夢とも明記されておらず、やはり、少なくともこれに近い体験があったのではないか、と思えるのだ。
「殺してやる。絶対ぶっ殺してやる」
冨永は自分を見下した人間、そして母親への“復讐”と“怒り”。そして貧しさから逃れたいとの一念から、15歳でモデルとなり、その後トップモデルへと駆け上がったという。