『楽天流』(講談社)
もし野球界に「ブラック球団大賞」なるものがあったら、来年の大賞はほぼ「東北楽天ゴールデンイーグルス」で決まりだろう。
理由はもちろん、新監督に“デーブ”こと大久保博元2軍監督が昇格することになったからだ。大久保氏といえば、選手時代の成績よりも粗野なキャラクターやトラブルでマスコミを騒がせてきた。西武ライオンズの1軍打撃コーチだった2008年11月には、暴行を受けたという女性から警視庁品川署に被害届が出されていたことが発覚(検察は略式起訴で罰金20万円)。10年には西武の2軍打撃コーチに復帰したが、若手選手への暴力事件を起こし、2度目の解任となった。
事実上の球界追放かと思われたが、12年、東北楽天ゴールデンイーグルスの一軍打撃コーチとして復帰。しかし、今年14年2月の2軍キャンプでは大久保2軍監督から特守ノックを受けていた19歳の若手選手が倒れ、心臓マッサージを受けるという事件も起きている。
それでも、大久保監督に反省の色はない。監督就任後の15日には「1軍でも守備が課題の選手なら、1000本ノックにトライしてもいい」と過酷なメニューを課す意向を示しているほどだ。
根性論が支配する前近代的なトレーニングに、星野仙一前監督同様の鉄拳制裁も辞さない体育会系プロ野球チームの誕生となったわけだが、この人選には球団のオーナーの三木谷浩史の意向が大きく反映されているという。前述した大久保氏の経歴はファンの間でも問題になり、ネットでは「大久保新監督就任反対署名運動」が6000名以上集まったというが、それでも、三木谷氏は大久保新監督をゴリ押ししたのである。
三木谷氏といえば、オンラインショッピングモール楽天市場を運営する楽天株式会社の創業者で代表取締役会長兼社長。ハーバード大学でMBAを学び、グローバルに企業買収を繰り返し、同社の流通総額は1兆7000億円を超えるまでに成長している。薬のインターネット販売規制に対し異論を唱えるなど規制緩和論者で、社内公用語英語化にもいち早く踏み切った先見性のある経営者ではなかったか。野球界に進出したのも、「僕ならこの業界の古い体質を改革できるかもしれないと思ったからだ」と新刊『楽天流』(講談社)で語っている。そんな経営者がなぜ、こんな旧態依然たる鉄拳制裁型の監督を選んだのか。
しかし、よくよく考えてみれば、三木谷社長はもともとそういう体育会系的なものが大好きなのかもしれない。それは「既存の枠にとらわれずルールを書き換えてみるという発想を多くの人に持ってもらいたいと思い執筆した」という前述の『楽天流』を読んでも、そのにおいがぷんぷんただよってくる。