それは2004年に休刊したスキャンダル雑誌「噂の真相」に対する広告打ち切り事件だ。同誌で副編集長を務めていた川端幹人がこんな体験を証言する。
「当時、「噂の真相」は毎月一回、「週刊文春」に目次広告を出稿していたんですが、93年11月中旬、突然、広告掲載打ち切りを通達されたんです。広告を扱っていた代理店からの通達でしたが、理由を聞いても一切教えてくれない。それで、裏からいろいろ調べたら『噂の真相が批判している作家や文化人、さらには社の上層部からのクレームがあった』ということがわかった。結局、話し合いで翌々号の94年1月号まで出稿する事になったんですが……」
しかし、事態はこれだけで終わらなかった。最後となった「噂の真相」94年1月号の広告には、JR東日本批判を展開しながら圧力に屈した「週刊文春」を批判する「JR東日本に完全屈服した文藝春秋の敗北の裏!」という記事の見出しが掲載されていたのだが、文春側はこの見出しを外すように要求してきたのである。また、この広告には広告掲載が打ち切られた事を読者に報告する「文春の意向により本誌宣伝は今号を最後に消えます…。」という文言も掲載されていたのだが、これも文春側は許さなかった。
そのため、同誌の広告には「JR東日本VS文藝春秋」の特集目次と「消えます」も一文が消えて、余白だらけの広告が掲載されたのだ。(画像参照)
左が「噂の真相」が入稿した版下、右が「週刊文春」94年12月15日号に掲載された広告。スカスカになっている
これは20年前の出来事だが、文春のこの姿勢はおそらく今も変わっていないはずだ。そういう意味では「文春」も「朝日」も同じアナの狢なのである。いや、朝日と文春だけではない。読売も、産経も、毎日も、新潮も、小学館も、講談社もみんな同じ対応をするはずだ。他社に対しては「社会の公器であることを忘れたのか」「表現の自由を踏みにじるのか」と責め立てるマスコミだが、自社のことになると態度を豹変させてしまうのだ。
もちろん、広告掲載拒否については、「報道機関として優遇措置を受けているわけだから、とくに自社への批判は謙虚に受け止めて積極的に掲載すべき」という原則論から、「私企業である以上。広告を選ぶ権利はある」という新自由主義的メディア論まで、さまざまな意見がある。
しかしいずれにしても、「朝日の歴史捏造体質が引き起こした広告掲載拒否」などという保守派の煽りが筋違いである事だけはたしかだろう。言論機関の自社批判封じ込めは、従軍慰安婦や歴史認識とは関係がない。すべてのメディアに共通する問題なのである。
(田部祥太)
最終更新:2015.01.19 06:05