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ネットニュースだけど、あえて「紙の本」への愛を伝えたい!

 こうして日本の出版を支える製紙工場の技術力と職人たちの矜持をメインストーリーに置きながら、随所に「紙の本」好きのマニア心をくすぐる専門知識が散りばめられているのも同書の読みどころだ。たとえば、技術者たちのこんな解説。

「文庫っていうのはね、みんな色が違うんです。講談社が若干黄色、角川が赤くて、新潮社がめっちゃ赤。普段はざっくり白というイメージしかないかもしれないけど、出版社は文庫の色に『これが俺たちの色だ』っていう強い誇りを持ってるんです。特に角川の赤は特徴的でね、角川オレンジとでも言うんでしょうか」

「書籍の色についても流行があって、以前はクリーム色がかったものが主流でしたが、ここ数年はホワイト、スーパーホワイトも人気が出てきた。時代が明るいものを求めているのではないか、と思いますね」

「(コロコロコミックの紙は)小さくて柔らかい手でページをめくっても、手が切れたりしないでしょう? あれはすごい技術なんですよ。一枚の紙を厚くすると、こしが強くなって指を切っちゃう。そこで、パルプの繊維結合を弱めながら、それでもふわっと厚手の紙になるよう開発してあるんです」

 ほかにも、紙を造る工程、質感の「調成」、印刷用紙の種類。「8号」が復活後に送り出した新作書籍用紙「b7バルキー」が大ヒットしたこと。震災1年後に再稼働した「N6」は家電量販店のチラシや通販カタログのような薄くて柔らかい紙を造っていること。アメリカの週刊誌「TIME」の薄い紙もこの工場の製品だったこと……などが紹介される。

 同書の終わり近く、製紙業界の未来を問う著者に「明るい材料はあまりないね」と工場長は答えている。著者自身も「電子書籍化もますます進んでいくだろう。東日本大震災から立ち上がったと言っても、製紙業界はこれからも修羅場をくぐらねばならない」と書く。

 では、「紙の本」を生きながらえさせるにはどうすればいいのか。同書がたどり着く結論はシンプルだ。出版業界に身を置く者はいい本を作り、ヒットさせること。読者は「作り手の覚悟が形になったかのような誇り高い一冊」を見つけること。「紙の本」に関わる者は、製紙業界から「たすき」を託されているのだ──。紙不足に泣いた3年前をもはや忘れ去ろうとしている出版関係者に重く響く言葉である。
(大黒仙介)

最終更新:2014.09.16 08:02

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