画像はシングルCD「スッペシャル ジェネレ〜ション」(Berryz工房/ピッコロタウン)より
「ダサいくらいなんだよ! ダサいけど楽しいからやってたんだ!」とは、世のアイドルファンたちを感涙させた『あまちゃん』の名セリフ。しかし、いまやアイドルも、アイドルを好きなことも、さほどダサいことではない。アイドルについて語ることは、サブカル的嗜みのひとつにもなっている。
それでも「アイドルはダサくて、でもそれがいい」。そんなことを思い出させてくれる、ある1冊の本がいま“アイドルファンのバイブル”として大きな話題になっている。バンド「神聖かまってちゃん」や「撃鉄」のマネージャーであり、自身もダブエレクトロバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシストとして活動する劔樹人の自伝的コミックエッセイ『あの頃。 男子かしまし物語』(イースト・プレス)だ。
というと、やっぱりサブカルじゃないかと思われるかもしれないが、実はこの『あの頃。』で描かれているのは、劔が主にハロヲタとして過ごした20代後半の“遅すぎる青春の日々”だ。「ハロヲタ」とは、モーニング娘。やBerryz工房をはじめとする、つんく♂プロデュースアイドル集団・ハロー!プロジェクトの“オタク”のこと。ある日、友人からもらったCD—Rに収録されていた松浦亜弥の動画を観て衝撃を受けた劔は、その日を境にハロプロにどっぷりハマってしまう。そして、あるイベントをきっかけにハロヲタ仲間と知り合い、切なくも楽しく狂おしいハロヲタ生活が始まるのだ……。
このエッセイの舞台となる2000年代前半から後半にかけてはAKB48ブレイクの前で、「アイドルといえばハロプロ」という時期。アイドルオタクといえば「キモイ」「ロリコン」「変態」などと白い目を向けられていた。いわばまだアイドルオタクが市民権を得る前、アイドルがまだ本当にダサかったころの、アイドルオタクの濃すぎる生態が描かれている。
「キモイ」「ロリコン」「変態」などと白眼視される状況を、当然、ハロヲタたちもうれしく思っているわけではない。劔は、母校の大学祭でハロプロ関連の企画を任されたとき、「アイドルオタクに対する偏見をなくしてもらおう」ということで、普通の女子大生とハロヲタとの合コンをステージ上で行い、それを公開するというイベントを開催した。
意外と観客も集まり、いい感じで盛り上がったイベントだったが、事件が起きたのはエンディングでのこと。「この曲でお別れしましょう」と、後藤真希の『スクランブル』という曲を流すと、一般客や大学生に紛れていたハロヲタたちが、ステージ前に集まり、曲に合わせてコールを入れたり、踊りだしたりと、大いに暴れてしまったのだ。