実は解散どころか、ここにきて宮崎駿監督の復帰説も高まっている。宮崎監督は現在、模型雑誌に連載するためのマンガを書いているようだが、その一方で、ジブリに毎日出社し、後進の指導にあたっているという。その熱心さは鈴木プロデューサーが「口を出さない、手も出さないと言っているのに、すぐに手も足も出す」と苦笑するほどで、『マーニー』製作の際も自分でイメージボードを作って、「こんなのはどうだ?」と介入してきたという。
そう考えると、宮崎監督自身に映画へのエネルギーが戻ってきている可能性は十分あるのではないか。
実は、引退発表をした時から、宮崎監督が『風立ちぬ』を最後の作品にするとはどうしても考えられなかった。というのも、宮崎監督は3・11の少し後、ちょうど『風立ちぬ』を製作している最中にインタビューでこんなことを語っていたからだ。
「今ファンタジーを僕らはつくれません。子どもたちが楽しみに観るような、そういう幸せな映画を当面つくれないと思っています。風が吹き始めた時代の入り口で、幸せな映画をつくろうとしても、どうも嘘くさくなってだめなんです」
「こういう時代でも、子どもたちが「ほんとうに観てよかった」と思えるファンタジーがあるはずですが、今の僕には分かりません。それが分かるまであと数年はかかります。それまでスタジオは生き延びなければいけない。いったい、僕はいくつになっているのか(笑)」
「生き延びるために、「コクリコ坂から」後の次の映画にとりかかっていますが、スタジオの大きな墓穴を掘っている可能性はおおいにあるわけです(笑)」
「世間がどんなににぎやかにやっていても、僕らはおだやかな落ち着いた方向へ舵をきるつもりです。ただ歳をとっただけだという可能性もあるんですが(笑)。でも、その方向に自分たちが探している新しいファンタジーがあるのではないかと思っています。まだ語るほどの内容はありませんが、そう感じています」
これらは、『本へのとびら──岩波少年文庫を語る』(岩波書店)におさめられた語り下ろしインタビューでの発言だが、宮崎監督がここではっきりと語っているのは、『風立ちぬ』はスタジオが生き延びるための映画であり、その先に、「子どもたちが『ほんとうに観てよかった』と思えるファンタジー」をつくるという目的があるということだ。それが何かわかるまで数年かかるから、それまでスタジオが生き延びなければならない、と。
これは逆に言えば、数年先になれば『風立ちぬ』の次、ほんとうにやりたかった作品をつくり始めるという宣言ではないのだろうか。
ジブリ映画、とくに宮崎駿の映画は国民的コンテンツであると同時に、混迷の時代に私たちが進むべき道を照らしてくれる数少ない存在でもある。宮崎監督に復帰して「『ほんとうに観てよかった』と思えるファンタジー」をつくってもらいたいと願うのは、アニメファンだけではないだろう。
(酒井まど)
最終更新:2014.09.23 08:53