「私はキャバ嬢だけど、あなたを騙す『悪いキャバ嬢』じゃない。ホントは『普通の女の子』。でも、やっぱり『キャバ嬢』なの。本気の恋愛感情は抱かないで。お金を落としてね」
まるでどこかのアイドルグループを彷彿とさせるような手法だが(というか、たぶんアイドルグループのほうがこの手法をまねたのだろうが)、「あくまでお仕事で、お金のため」というキャバ嬢と、「素人だからあわよくば本当の恋愛に」という客の心理的矛盾、ギャップはキャバ嬢にとってかなりのストレスになるらしい。
その結果、どうなるのか。実はキャバ嬢たちの多くは“病む”のだという。北条は同書でこう書いている。
「私はトイレや更衣室で泣いているキャストを幾度も目にした。彼女たちが流す涙の原因はよく分からないことが多かったが、キャバ嬢という仕事には、ストレス=『病み』がつきものである」
素人であって素人でない。キャバ嬢であってキャバ嬢でない。恋愛感情を持たれないといけないが、持たれたくない。自分のプロフィールもウソ。矛盾する客や店側のリクエストに応え、“演出”を続けていくうちに、それに耐えられず「多くのキャストは精神を『病み』、仕事を辞めていく」のだという。
安易で華やか──そんなイメージのキャバクラの世界だが、人間は実際にはそんなに簡単に割り切れるものではない。当たり前の話だが、風俗的な話題の裏側では生身の女性の苦悩が存在するのである。
(伊勢崎馨)
最終更新:2018.10.18 05:38