それにつられたのか、大人なはずの真木のほうも涙をこぼす。しかも「好きになったのもお前がはじめてだよ」と、まるで子どものように袖でごしごし顔をぬぐいながら。そればかりか「お前がモテるって聞いたから、心配で見にきたんだよ」と大学まで押しかけて泣いたりもする。余裕綽々で、何でもできる大人だと思っていた年上の相手が、自分の目の前でふてくされて泣いているところを見たら、対等になれた気がしてうれしくなるのではないだろうか。
オラオラ系の泣き顔も、意外といい。「泣けないうそつき」の主人公は、好きな人の理想の男になるため、泣かないと決めた健気な元ヤンの高校生・瀬川だ。瀬川は、一目惚れした同級生の真中がマジメで潔癖なため、元ヤンであることを隠し「いい子」を演じている。その努力が実り告白をOKしてもらえたときは、うれしくて泣いてしまうのだ。オラオラ系だが意外と涙もろいのである。しかし、真中に「泣くな」ととがめられたため、二度と泣かないと決めるのだ。その健気ぶりには、読んでいるこちらが泣けてくる。元ヤンだったことがバレて別れ話を切り出されたときも、ふるふると震えながら、必死に泣くのをガマンする(といっても、目に浮かぶ涙は隠きれていないのだが)。
しかし、本性がバレてからは、すべてをさらけ出す。胸ぐらをつかみ、超至近距離で「好きに決まってんだろ…!バカ野郎」と言いながら、ボロボロ涙をこぼすのだ。オラオラ系の泣き顔は迫力満点だ。泣きながらもまっすぐ見つめてくる視線には、逸らすことを許さない強さがある。オラオラ系で口は悪くても、「ちくしょお~~~~~~すきだっ…」と盛大に泣く姿には、圧倒されてしまう。
男の泣き顔が好きな人は、Sっ気のある人だけでなく、だめんずに引っかかりやすいタイプも多いらしい。“涙は女の武器”などと言われてきたが、使い方によっては男の武器にもなるのかもしれない。
(田口いなす)
最終更新:2018.10.18 04:27