映画『思い出のマーニー』公式サイトより
本日7月19日から公開されたスタジオジブリの最新作『思い出のマーニー』は、イギリスの同名児童文学が原作だ。ジブリの宮崎駿・高畑勲の両監督が参加しない、次世代のジブリ作品として注目を集めているが、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーは映画の関連イベントに出席した際に、男女の物語を重視する宮崎監督が作品に口出ししないように、女の子同士の作品を選んだと冗談交じりに話した。しかし、なぜ今の時代に『思い出のマーニー』が選ばれたのだろうか?
日本の心理学の功労者、故・河合隼雄氏はこの作品を傷付いたたましいの再生の物語と読み解いた。『子どもの本を読む』(岩波現代文庫)では、主人公アンナとマーニーの交流や、アンナを取り巻く人のなにげない対応が、心理学の見地からどのような効果があったのかを解説している。
物語の主人公アンナは、母親とその再婚相手を事故で亡くし、養父母に引き取られていた。しかし、持病の喘息の発作や「何に関してもやる気のない」閉ざされた心を周囲が危惧し、養父母の古い友人で、海辺の村リトル・オーバートンに住むペグ夫妻のところに送り出す。夫妻はできる限りアンナを自由にし、彼女の過去や行動を詮索もせず、流れのままに任せている。
河合氏はこのことを、「ペグさんたちは、今日の優秀な心理療法家がアンナにするだろうと思えるのと同様のことをした」と評価している。というのも「人間は他人のたましいを直接には癒すことができない」「われわれはたましいの方からこちらへ向かって生じてくる自然の動きを待つしかない。しかし、そのためには、その人をまるごと好きになることと、できるかぎりの自由を許すことが必要」だからだという。ペグ夫妻の“放任”によって、アンナの固く閉ざされていた心は、再生するためのやわらかさを取り戻し、他のものの侵入を受け入れる素地ができたのだろう。