番組HPより
この年末年始、再び多くの人びとが怒りの声をあげる事態が起こった。映画監督の河瀨直美とNHKに対する怒りだ。
というのも、BS-NHKは12月26日(30日に再放送)に東京五輪公式記録映画の監督を務める河瀨氏に密着したドキュメンタリー番組『河瀬直美が見つめた東京五輪』を放送したが、そのなかで河瀨氏は「五輪を招致し、喜んだのは私たち」などと反対派の声をなきものとして語った。そのうえ番組は、なんと「東京五輪の反対デモにお金で動員されていた人がいた」と報道。しかも、それがあまりにも杜撰かつ怪しすぎる内容だったからだ。
まず、河瀨監督についてだが、本サイトでも以前取り上げたように(過去記事参照→https://lite-ra.com/2021/06/post-5910.html)、東京五輪開催前の昨年6月に出演した『スッキリ』(日本テレビ)でも「オリンピック憲章に書かれた本当の意味のアスリートファーストのオリンピックというのは非常に素晴らしい、感動的だ」などと熱く語る一方、「コロナの不安をオリンピックにぶつけるという不満というのは、少し棲み分けないといけない」と世界的パンデミック下で五輪を開催することに不安を抱く人たちの感情を八つ当たり扱い。東京五輪の開催によって新規感染者数は急増し、医療崩壊が巻き起こったが、その最中だった8月中旬に出演した『報道ステーション』(テレビ朝日)でも河瀨監督は「渋谷は若い人たちですごい状態」「みんなの意識が低くなっている」などと発言していた。
結果、8月だけでも医療崩壊によってコロナで自宅死した人が250人にものぼり、まさに東京五輪に反対した人びとの危惧が的中したかたちとなったわけだが、しかし河瀨監督は今回のドキュメンタリーのなかで、こんなことを言い出したのだ。
「日本に国際社会からオリンピックを7年前に招致したのは私たち」
「(開催が決まって)喜んだし、ここ数年の状況をみんなは喜んだはず」
「これはいまの日本の問題でもある。だからあなたも私も問われる話。私はそういうふうに(映画で)描く」
「私たち」が招致して、開催が決まって「みんな」が喜んだ……!? 言わずもがな、招致に動いたのは森喜朗だの石原慎太郎だの安倍晋三だのといった五輪利権や政権浮揚しか頭にない政治家たちであって、断じて「私たち」ではない。そして、「復興五輪」を掲げながらダシに使われただけの被災地や、五輪に伴う再開発で霞ヶ丘団地からの立ち退きを迫られた高齢者たち、さらに利権まみれな上に国威発揚に利用される国策五輪を批判する人びとなど、東京五輪に反対を唱えてきた人も数多くいた。なのに、河瀨監督は「みんなは喜んだはず」「あなたも私も問われる話」などと乱暴にひとまとめにしたのだ。
当然、この発言には怒りの声がSNS上に広がり、「#五輪を招致したのは私達ではありません」というハッシュタグが正月早々トレンド入りする事態となったのである。
東京五輪の開催をさんざん後押ししてきた上に、反対してきた人びとの存在などなかったかのごとく責任を全体に押し付ける──。だが、河瀨監督はもともと「体制寄り」を隠そうともしてこなかった人物だ。
実際、前述した本サイト記事でも指摘したが、以前からスピリチュアルへの傾倒が指摘されてきた河瀨氏の作品に惚れ込んだひとりが安倍昭恵氏で、2015年には自ら河瀨氏と対談したいと「AERA」(朝日新聞出版)に企画を持ち込んだほど。そして、安倍首相が昵懇だった俳優の津川雅彦氏を統括に据え、津川氏の国粋主義や日本スゴイ思想も盛り込まれたパリでの展覧会「ジャポニスム2018」にも河瀨氏は参加し、作品が特集上映された。河瀨氏が東京五輪の公式記録映画の監督に就任したと発表されたのは、この「ジャポニスム2018」で特集上映が開始される1カ月前のことだ。