人工呼吸器やECMOを導入した川崎の民間病院が「地域医療構想」のせいで救急センター運営できず
周知のとおり、コロナ患者の多くを受け入れてきたのは公立・公的病院だが、自民党政権の医療費カット政策によって公立・公的病院の感染症病床は削減されつづけ、さらにこの「地域医療構想」によりコロナの重症患者を受け入れることができるような高度急性期病床も削減されてきた。つまり、感染症対策という国家の安全保障を軽視して社会保障をカットし防衛費を増額させてきた結果、いまのような危機に陥っているのだ。
実際、この「地域医療構想」による悪影響は、コロナ治療にあたる最前線の現場にあらわれている。今年6月27日に放送されたNHKスペシャル『パンデミック 激動の世界(12) 検証“医療先進国”(後編)なぜ危機は繰り返されるのか』では、神奈川県川崎市の民間病院である新百合ヶ丘総合病院がICUを備える救命救急センターを開設するべく、感染症に対応できる個室病床を増設、人工呼吸器やECMOも導入し、今年4月の運用開始を目指したものの、病床を削減するための「地域医療構想」がネックとなって地域の医療機関や行政が参加する会議で合意が得られないという実情が報告されていたからだ。
だが、菅政権には何の反省もなく、6月に閣議決定された「骨太の方針」でも、社会保障費の削減や「地域医療構想」の推進を掲げているのである。
いや、これは政府だけの問題ではない。小池都知事はこの「地域医療構想」に乗っかり、コロナ対応の重点医療機関となってきた都立広尾病院や公社豊島病院、公社荏原病院をはじめとする公社・都立病院の独立行政法人化を計画しているからだ。いまこそ公的病院の重要性がはっきりとしたにもかかわらず、この期に及んでもコストを優先し、独法化を進めた結果コロナによって医療提供体制の脆弱さが顕になった大阪府のあとを追いかけようというのである。
このような医療崩壊を招くような政策を取り下げることもせず、挙げ句の果てに「病床を確保しなければ名前を公表するぞ」と脅す。そして、大阪の医療をボロボロにした張本人である橋下氏や自民党政権下で医療費カットを進言してきた竹中氏といった連中が「強烈な制裁を加えろ」だの「医療ムラを解体しろ」と叫ぶ──。ようするに、菅政権も小池都知事も菅首相の応援団も、命の危険に晒されている市民を救わなければならないという危機感はまるでなく、たんに医療機関をスケープゴートにして自分たちの責任から目を背けようとしているだけなのである。
当然だが、こんな連中の言うことを信じ、「患者を受け入れない病院が悪い!」と叫んでも、この危機を乗り越えられるわけがない。それよりもいま必要なのは、菅政権は「地域医療構想」に基づく病床削減政策を、小池都知事は公社・都立病院の独法化を方針撤回することであり、パラリンピックの中止および競技会場・関連施設を使用した野戦病院の開設であることだと強く指摘しておきたい。
(水井多賀子)
最終更新:2021.08.24 09:31