圧力をかけたNHK経営委は安倍首相の任命 抗議の日本郵政副社長は菅官房長官の元部下
ひとつが、NHK経営委員会そのもののあり様だ。そもそも経営委はNHKの監督機関だが、委員の任命権は首相にある。とくに第二次安倍政権では、安倍首相の“ブレーン”のひとりである長谷川三千子・埼玉大名誉教授、安倍首相の家庭教師も務めていた本田勝彦・JT顧問(2018年退任)、そして、あの“ネトウヨ作家”こと百田尚樹氏(2015年退任)までもが送り込まれるなど、露骨に“アベ友人事”が敷かれた。安倍政権で再任された現経営委員長の石原氏も、数年前まで日本会議福岡の名誉顧問を務めていたゴリゴリの右派だ。
そう考えると、今回、この“安倍派”が牛耳る経営委が郵政側の「申し入れ」を受けて上田会長を「厳重注意」し報道に介入したことについても、やはり、政権を忖度したのではとの疑念が生じて当然だろう。事実、この問題には安倍政権の影がちらついている。とりわけ見逃せないのが、放送を管轄所管する総務省の影響力だ。
高市早苗総務相は27日の会見で、「(NHK経営委は)個別の放送番組や番組編集について述べたものではない」「(放送法に)反した行動を取ったものではない」と火消しに走ったが、言うまでもなく、総務省と日本郵政グループは切っても切れない関係にある。現在の総務省の前身のひとつが他ならぬ旧郵政省であり、日本郵政グループの幹部には鈴木康雄・日本郵政上級副社長や高橋亨・日本郵便現会長など、総務相(旧郵政省)出身の元上級官僚たちが何人も天下りしているからだ。
なかでも鈴木氏は総務相の事務次官まで上り詰めた元事務方トップだ。菅官房長官が第一次安倍政権の総務相時代には総務審議官を務めており、現在も昵懇の間柄だ。2016年にゆうちょ銀行社長から日本郵政の社長へ“出世”した民間出身の長門正貢氏の「後ろ盾」も鈴木氏といわれる。長門氏は2017年3月決算での未曾有の大赤字にもかかわらず社長の首を繋いだが、「ZAITEN」(財界展望社)10月号によると、このとき鈴木氏が自民党の郵政族にかけあい、さらに長門氏と菅義偉官房長官を引き合わせるなど続投に奔走したという。
今回のNHKへの「申し入れ」問題でも、その鈴木氏の名前が挙がっている。前述のように、昨年10月5日には郵政側が経営委に宛てて「ガバナンス体制の検証」なる文書を送りつけている。これを受けた経営委の石原委員長が上田会長に厳重注意し、11月6日に上田会長が郵政側に文書で事実上の“謝罪”をするわけだが、朝日新聞によれば、その翌日、〈郵政側は「充分意のあるところをお汲み取りいただいた」とした上で、「一応の区切り」とする文書を元総務事務次官の鈴木副社長名で返した〉という。
つまり日本郵政側で窓口になっていたのは、菅官房長官と関係の深い元総務省幹部だったのだ。