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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第32号

理不尽な労働契約でも結んでしまったら文句を言えない? 労働基準法を満たさない契約も就業規則も無効!

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 ある日の夕方、女性(Aさん)が相談にやって来た。聞くと、「残業代をきちんと支払ってもらってない」ということだった。残業代の計算の基礎になる1時間あたりの給与が低く計算されているというのだ。

 そこで、雇用契約書を見せてもらうと、給与の欄には「基本給●万年+職務給●万円」とあるが、残業代の欄には、「職務給を除く基準内給与を基準額とする」との記載があった。

「つまり、残業代の計算の基礎に職務給が入ってない、それで残業代の金額が安くなってしまっているということですね。」私がそう聞くと、そうだという。

 残業代(割増賃金)の計算をする際には、まず1時間あたりの給与がいくらになるのかを計算する。この1時間あたりの給与を「1時間あたりの基礎賃金」というのだが、この「基礎賃金」の計算にあたって、基本給の他に手当などの支給がある場に、どれを除外できるのかについては、労働基準法に明確な決まりがある。

労働基準法によると、この「基礎賃金」の計算から除外できるのは①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金となっている(労基法37条第5項、労基法施行規則第21条)。これらは、例として挙げられているのではなく、これしか除外してはいけないという意味で挙げられている。

 つまり、ここに挙がっていないものは除外できないということだ。Aさんの会社で支給される「職務給」は、毎月支給されるので⑥⑦でないことは明らかだし、無論①〜⑤でもない。

 したがって、法律によって基礎賃金の計算から除外できる項目にはなっていないということになる。つまり「除外はできない」ということになるのだ。

 また、Aさんは既に退職しているのだが、退職金規定で計算するよりも低い額の退職金しかもらっていないという。

 Aさんによれば、その会社には退職金規定が存在するとのことであった。確認すると確かに計算式まできちんと規定した退職金規定があり、計算してみると支給された退職金の額よりも、退職金規定によって計算した方が高額になった。
そこで会社に残業代と退職金の請求書を送ったところ、会社から退職金について、以下のような回答があった。

――会社には特に決まった退職金規定はなく、Aさんとの間の労働契約でも退職金には「特に定めがない」旨の合意をしている――

 ここでは、このように、個々の労働者との間で取り交わした労働契約と就業規則の内容が違った場合、どちらが優先になるのかを確認しておきたい。

 労働契約法7条には、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」という規定がある。これを見ると、個別の労働契約の内容が優先されそうだ。しかし労働契約法7条には続けて「ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」とある。

 そこで、第12条を見てみると、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」とある。

 つまり、就業規則よりも個別の労働契約の方が優先されるのは、個別の労働契約の方が労働者にとって有利な場合ということになる。なお、就業規則も労働基準法などの法令や労働組合と会社の間で結ばれる労働協約に反している場合には、その就業規則も無効になる(労働契約法13条)。

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